日野皓生(tp)「慈愛LOVE」を語る (後編)
前回に引き続き、日野皓正さんのお話です。前編からお読みください。
人間生きていくうちでね、何が大切なのかなと思って
- 河上
- 毛筆の書でタイトルを書かれた写メールが届いたときは感激しました。まずお気持ちがありがたくて。制作中、とても励まされました。
- 日野
- 小学校、中学校からオタマジャクシ♪♪ばっかり追いかけていたわけだから、字なんかほんとにヘタクソですけど。
- 河上
- とんでもない、素晴らしかったので、、「忠」(FIDELITY)という字をブックレットの中に載せさせていただきました。
- 日野
- あ~あ、恥ずかしい~。
- 河上
- これらタイトルはどんなふうにお付けになったのですか?
- 日野
- 人間生きていくうちでね、何が大切なのかなと思って、それを辞書で引いて自分が心に響くページを見ていって。
「あっ、この字何だろう?」って見たら、読み方が違うのがいっぱいあるわけ。「あ、コレいいなぁ。」と思って、その読み方にしたわけ。 - 河上
- 例えば法螺貝の曲は、“忠義を尽す”の『忠』という字ですが、“まごころ”と読むんですね。知りませんでした。
- 日野
- 僕も知らなかったから、これはゴキゲンと思って(笑)。
- 河上
- 『忠』を法螺貝に当てはめられたのには何か意味はあるんですか?
- 日野
- そうね・・・感性だね。この曲はこれだなって感じるままに。みんなどれをとってもさ、同じような感覚じゃん。『信』も『矢』も。あんな風に読むとは思わなかったけどね。
- 河上
- そうですね~。般若心経でやっていただいたのが『信』と書いて“まこと”、英語で「FAITH」。それで10曲目が『矢』と書いて“ちかい”「OATH」。
- 日野
- OATHとかFAITHもFIDELITYも、みんな心に結び付いているじゃないですか。だからそれも辞書で引いてもらって、自分で「なるほどな、こうなんだ~」とか言ってもらいたいと思います。
- 河上
- そうですね。それでこの字をイメージしながら聞いていただくとまた、いろんな味わいがあるかもしれませんよね。
- 日野
- 色々な意味でさ、「日野違うじゃない」とか思ったりするのかもしれない(笑)「この人関係ないな~」と思うかもしれないしね。面白い(笑)
いかにニュートラルで、ヤジロベエの真ん中に立っていられるか。
- 河上
- 日野さんが一生かけてやっていきたいと思っていらっしゃることって、どんなことですか?
- 日野
- 僕もわかんない、それは。ただ行かされる方向に行くまでだけど、自分がニュートラルでいれれば方向指示器を出された時にパッと行けるんだけど、力が入ったり、自分に背いて歩いて行こうと思うと、そうはいかない。だから、そのことを取っていく。
「無」になれるような環境を自分から作っていかない限り、それは無理なわけだ。
そういう自分を作っていくことによって音が変わってくるし、自然にいろんな方向にアイデアも変わってくると思う。 - 河上
- (深呼吸して)ニュートラルですか。
- 日野
- 「自分が考え出すという能力」よりも、「自分を磨く動作」に入れば、自ずと天はこう言ってくれると思うんだ。
「こういうのもいいよ。全部悪いってことはないんだよ。
それに心が入ってればいいんだよ。
それが大きければ、包容力があればいいんだよ。愛が入っていればいいんだよ。」って。
それに、恐れないでいろんなこともできると思うんだよね。
だから聞く耳を持つのは自分。いかにニュートラルで、ヤジロベエの真ん中に立っていられるかってことなんだよ。 - 河上
- ん~、言葉にするとそういうことですが、それを実行できるかというと、、、。
- 日野
- それが難しい。でもそれをやるのが俺達プロだし。それを求めて一生ダメなのにわかってて、一生それにかけて努力していくのが僕達の道だと思うし。
- 河上
- そんな覚悟があるからこそ、今回のライブレコーディングが成り立ったわけですね。今さらながら、ありがたいことです。
- 日野
- 今回のアルバムを聴いたってさ、自分で「もっとこうやりゃ良かった」って、後からどんどん出て来ると思うのね。自己批判とかね。
でも、あなたとか俺とかそういう小さな人間じゃない、誰かが牛耳ってんだよ。それに身を委ねれば、自然に成っちゃうの。
それがこれから僕が行こうと、もっと行かないといけない道だと思うの。 - 河上
- 自分で道を切り開いていくんだ!っていうんじゃないんですね。
- 日野
- そう、いろんな悩みを持った人とか奮闘してる人、僕も含めてね、天の采配に、慈愛を込めて無で立ち向かってれば、いろんなことが成り立っていくんだ。
- 河上
- 「慈愛」という言葉が出てきましたね! 確かに日野さんの「パー」とか「ププー」っていう一音一音はとても表情豊かで、「大丈夫だよ」「元気出していこうよ」 と、慈愛のこもったメッセージに聴こえてきます。あっ、これが天の声ですね!
- 日野
- それはあなたが深いからそう思えるんで、過大評価かもしれないですが(笑)
- 河上
- いえいえ。そんなアルバムの感想がたくさん届いていますよ。「すごく自然で人間的だ」とか、「心の深いところを温めてもらえた」とか、「前向きな未来を思い浮かべた」とか。
- 日野
- 僕だってそうだよ、同じだよ。吹いてる時にね、僧侶達から天の力を受けて。
レコーディングのとき、どの曲もファーストテイクでOKって言ったでしょ?
あれを直すとダメになっちゃうんだよ。
だから、もしそれが失敗作でも最初に来た声を大事にしてやることが、今自分の置かれている立場の度量なんだよね。ダメならダメなりにさらけ出さなきゃいけない。 - 河上
- 今日はよい話をたくさんおうかがいできて本当に光栄でした。日野さんからとても純粋なエネルギーをいただきました。大変貴重な時間をありがとうございました。
天の采配に、慈愛を込めて無で立ち向かう
「お経」と「即興演奏」との出会いで、突如現れた未知なる世界へ…京の都の不思議な森に、しばし迷い込んでください。
くわしくはこちらからこのアルバムは、いにしえの都 京都を舞台に、千年以上の時を超えて読み継がれてきた「お経」を経糸(たていと)に、読経にインスピレーションを得て現代の感性で紡ぎだされた「音楽」を緯糸(よこいと)に、全身全霊を注いで織り上げた古今音絵巻です。
「お経」の「経」は「経糸」のことで、「不変の真理」を述べたものです。その響きには調和のとれた波動がもたらす、深い癒しの力があります。信仰の有無に関わらず仏教は日本文化や生活に根づいていて、読経を耳にするとき私たち日本人のDNAはなにかしらの刺激を受けます。このお経の響きに日本を代表するアーティストたちが向き合いました。
日野皓正
(ひのてるまさ) (Jazz Trumpeter)
タップダンサー兼トランペッターであった父親より、4歳からタップダンス、9歳からトランペットを学び始め、13歳の頃には米軍キャンプのダンス・バンドで活動を始める。
1964年、白木秀雄クインテットに参加し、1965年ベルリン・ジャズ・フェスティバルに出演し喝采を浴びる。
1967年、初リーダー・アルバム『アローン・アローン・アンド・アローン』をリリース。
1968年、菊地雅章との双頭ユニット日野=菊地クインテットを結成、録音。
1969年、『ハイノロジー』をリリース後、マスコミに“ヒノテル・ブーム”と騒がれるほどの絶大な注目を集める。
1972年、ニューポート・ジャズ・フェスティバル出演。
1975年、N.Y.に渡り居を構え、ジャッキー・マクリーン、ギル・エバンス、ホレス・シルバー、ラリー・コリエルなどと活動を重ねる。
1979年、『シティー・コネクション』、1981年『ダブル・レインボー』、とたて続けに大ヒットアルバムをリリース。
1982年、『ピラミッド』をリリースし、武道館を含む全国ツアーを行う。
1984年、ロサンゼルス・オリンピック・アートフェスティバルに出演。
1989年、ジャズの名門レーベル“ブルー・ノート”と日本人初の契約アーティストとなり、第1弾アルバム『ブルーストラック』は、日本はもとより、アメリカでも大好評を博す。
1990年以降、自身の夢である「アジアを1つに」という願いを込め、アジア各国を渡り歩き、探し集めたミュージシャンと結成した《日野皓正&ASIANJAZZ ALLSTARS》で、1995~96年に北米-アジアツアーを行う。
1995年、日野=菊地クインテットによる『アコースティック・ブギ』《日本ジャズディスク大賞 金賞受賞》をリリースし、Mt.Fuji Jazz Festival他、ブルーノート・ツアーを行う。
1997年、台湾での「第16回国際芸術祭」、シドニーでの「日豪友好100周年記念コンサート」に出演。
2000年、大阪音楽大学短期大学部客員教授就任。
2001年、インド、パキスタンにて公演の他、西インド地震災害チャリティコンサート、そしてカンボジアでも子供たちのためのチャリティコンサートを行う。
アルバムは『D・N・A』をリリースし、レコーディング・メンバーにて全国ツアーを行う。このD・N・Aプロジェクトは芸術選奨文部科学大臣賞(大衆芸能部門)受賞。
2004年、紫綬褒章受章。また約20年ぶりに映画音楽を手掛け、〔『透光の樹』主演:秋吉久美子、監督:根岸吉太郎〕サウンド・トラックは文化庁芸術祭レコード部門 優秀賞、毎日映画コンクール 音楽賞受賞。
2007年、盟友 菊地雅章(pf)との、日野=菊地クインテット『カウンターカレント』、デュオ・アルバム『エッジス』を発売。 《『エッジス』日本ジャズディスク大賞 銀賞受賞作品》
最新アルバムはレギュラークインテットによる2008年11月リリースの『寂光』。《ジャズディスク大賞 日本ジャズ賞受賞作品》
ジャズシーンを代表する国際的アーティストとして国内外にて精力的に公演を行うと同時に、近年は個展や画集の出版など絵画の分野でも活躍が著しい。またチャリティー活動や後進の指導にも情熱を注いでいる。