インタビュー

初挑戦でのぞんだ未知なる領域でのアルバム作り

2010年10月6日、お経と即興演奏のコラボレーションアルバム「慈愛LOVE」が発売されて以来、おかげさまで各方面から様々な反響をいただき、静かにじわじわと浸透していっている手応えを感じています。

ミュージシャン、僧侶、制作関係者、、、参加したすべてのひとが初挑戦でのぞんだ未知なる領域でのアルバム作り。この異色のアルバムに携わった人々はどんな気持ちで取組み、何を表現したのでしょうか?

これから数回にわたり、参加アーティストにうかがったお話を紹介していきたいと思います。
まずは、この企画に対して最初に関心を示してくださり、制作を進める上で大いなる勇気を与えて下さった山下洋輔さんからスタートです!

「慈愛LOVE」参加アーティストインタビュー第一弾

山下洋輔(p)「慈愛LOVE」を語る

~これは、サトリ・セッションです(笑)。~

昨年10月2日、山下洋輔さんがKBS京都のラジオ番組「山崎弘士のGOGOリクエスト」に出演されたときの模様をお届けします。京都ではお馴染みのベテラン番組パーソナリティ 山崎弘士さんとの対談をお楽しみください。

・・・・若い頃の京都での思い出話などの後、ここから「慈愛LOVE」の話題がはじまります。
山崎
いろいろご活躍の中で、今度は「お経」とさらにそれに「即興演奏」を加えてというアルバムができ上がっているんですよね?
山下
これは「ライブスポット ラグ」の河上ひかるマダムの発案なんですね。面白い事を考えるなあと思ってお話を聞いたのですが、実家がお寺でそういう音に親しんでいたとか、共通の友人でぼくのニューヨークトリオを全部最初からやってくれていたレコーディングエンジニアのデヴィッド・ベイカーへの哀悼の気持ちなどが、長い間のジャズマンとの交流の経験と重なって、ひらめいたらしい(笑)。しっかりした動機を理解できたので、引き受けました。

その後で色々思い出したのですが、国立音大に入学したときに有馬大五郎先生の授業があって、「日本の音楽の始まりは声明だ」と言って黒板の五線紙に音符を書いた。ある決まった音にたどり着けば、その他の音の音程は不確定でよいという考えで、小泉文夫先生の「日本伝統音楽の研究」と同じ考えですね。ジャズにもブルースの節にはそういう動きがあるので、そのころからなんとなく納得していたんでしょうね。それで対決してみました。
山崎
あ~、なるほどね~。対決という?
山下
ま、最初はそんな気持ちだったのですが。結果的には、融合と言ってもいいんでしょうけど。
山崎
融合にもなるんですね。
山下
一緒に何かをこしらえたわけですからね。「お坊さん達がずっと唱えているお経と一緒に、自分がピアノを弾いたらどうなるか。」っていうのは、一種のものすごい実験でもあったんです。
山崎
確かにこれはすごかったでしょうね。実際に後でまた聴いていただきますけれど、実際にレコーディングする時っていうのはどうだったんですか?
山下
それは少しは見当がつくんです。さっきの話の通りで、中心になる音があるわけですから、それを手がかりにするんですね。即興演奏の相手というのは、その日に出会ってやることもあるわけですから、「この人はどういうことをやるんだろう?」と探りながら音を出し合うこともあります。お経はこういう音だなって理解すれば、それを元に自分の音を出せるわけです。
山崎
実際にやろうといった時に、指の動きはどうだったんですか?
山下
それはもうジャズの即興演奏と同じです。お経から出てくるある音を「中心音」と考えて、それを音楽的に処理するわけです。とても自由に楽しくできました。
山崎
あっ、そうなんですか。難しかったとかそういうことではないわけですね?
山下
それはないですね。難しくて悩んだというのではないです。でも、こちらの音に反応して相手の音が変わるということがないのが、ジャズとちがうかな(笑)。
山崎
あーなるほど。
山下
でもなんかすごく浸りまして、自分の音を平気で出せていけたっていう気持ち良さがありましたね。お釈迦様の手の平でいくら暴れても外に出られないっていうあれかな(笑)暴れれば暴れるほど自分の本性が現れてくる。ま、音楽というのはそういうものだと思いますが、そのことがあらためて分かった、サトリ・セッションです(笑)。
山崎
でも、そういうレコーディングというのは今までなかったと思うんですよ。はっきり言って。
山下
はい。それはなかったですね。
山崎
でも山下洋輔さんであったり、日野皓正さんであったり、安達久美さん、岡本博文さんといったようなメンバーがそれぞれに持ち味を発揮しながら。
山下
そうなんです。それぞれにあの音と一緒にやるっていう時にどうなるかっていうのがとても面白いですね。皆夫々サトったのではないでしょうか(笑)

~ここで、『鳴』が流れる~

山崎
今聴いていただいた曲はこのアルバムの中から山下洋輔さんがやってらっしゃいます、2曲目に入っている曲ですね。『鳴』(めい)と読んだらいいんですか?
山下
はい。一文字の漢字のタイトルをつけようというアイデアが出て、それに則ってつけました。聴き直して、響いて、鳴っていると思いまして。5曲目が抱(いだ)くで『抱』(ほう)、11曲目が巡るという意味で『輪』(りん)。そういうイメージでつけたタイトルです。
山崎
では、時間になりました。今日はありがとうございました。

協力:KBS京都 http://www.kbs-kyoto.co.jp/radio/go/

慈愛 LOVE

「お経」と「即興演奏」との出会いで、突如現れた未知なる世界へ…京の都の不思議な森に、しばし迷い込んでください。

くわしくはこちらから

このアルバムは、いにしえの都 京都を舞台に、千年以上の時を超えて読み継がれてきた「お経」を経糸(たていと)に、読経にインスピレーションを得て現代の感性で紡ぎだされた「音楽」を緯糸(よこいと)に、全身全霊を注いで織り上げた古今音絵巻です。

「お経」の「経」は「経糸」のことで、「不変の真理」を述べたものです。その響きには調和のとれた波動がもたらす、深い癒しの力があります。信仰の有無に関わらず仏教は日本文化や生活に根づいていて、読経を耳にするとき私たち日本人のDNAはなにかしらの刺激を受けます。このお経の響きに日本を代表するアーティストたちが向き合いました。

山下洋輔 新譜情報

「ディライトフル・コントラスト/山下洋輔ニューヨーク・トリオ with 飛鳥ストリングス」

2011年2月23日発売, Verve, UCCJ-2085, ¥3,000

YYOWS:山下洋輔Official Web Site