Music for Reading from KYOTO RAG by Hikaru Kawakami

MFR曲目解説|選曲者 河上ひかる

MFRのアルバム内容を一言で言いますと、「RAGMANIAレーベルの作品で、バラード色の強い楽曲のコンピレーションアルバム」ということになるかと思います。星空の写真集と似合いそうな、ロマンティックで美味しい曲ばかりです。
収録曲について、ミュージシャンたちに直接インタビューしたことをあれこれ書きました。
ライナーノーツに載せた文章に付け加える形で書いています。ご了承下さい。

1 LADY TRAVELER

フリューゲルホーンを奏でる天女に誘われて、地上からゆっくり飛び立つ。天空とのランデヴーの始まりだ。

 土岐英史(sax)が、中音域の音色が魅力的な市原ひかり((flh)のために書いた曲。「ひかりちゃんは精力的にツアーしているから、レディー・トラベラー。」

 土岐さんにこの曲のエピソードを尋ねたところ、RAG初演の時、前の席に座っていた女性客が五人一斉に涙を流し出したのが印象的だったそうです。

 出だしの音で心奪われます。一曲目を飾るのはこの曲しかないと思いました。

 豪華スリーホーンのセクステットで作った土岐のソロアルバム『6/6』より。

2 GRAND BLUE

 海中の真っ白な砂地に佇んで、遠くへ行くほど濃くなるブルーのグラデーションを眺める。想像を超える自然の神秘に接した時に沸き起こる感動、そして安らぎ。岡本博文(g)がスキューバダイビングを通して知ったもう一つの世界。

 GRAND BLUEはフランス語で「雄大な青」を意味しますが、リュック・ベッソン監督の映画「グラン・ブルー」を思い浮かべる人も多いと思います。私もジャック・マイヨールがイルカと戯れるシーンに釘づけになり、スキューバ・ダイビングを始めた一人で、岡本さんも仲間に誘い入れました。結果、海は素晴らしい音楽をも生み出してくれました。

 リゾートミュージックのパイオニア「オカモトアイランド」の『グラン・ブルー』のタイトルチューン。

3 SONG

 波の音、薫る風。デッキチェアでうとうとしているうちに、ふとみた白日夢。どんな夢だったかすら覚えていないけど、ライムシャーベットの口溶けの心地よさだ。

 「オカモトアイランド」『You Are My Sunshine』より、佐伯準一(key)作曲。全編を通して、円熟した大人のリゾート空間に浸れる一枚。

 佐伯さんはこの曲を「どこ」とか、「何」とか、限定したイメージにしたくなくて「SONG」という抽象的なタイトルにしたのだそうです。鍵盤に手を置いたらさらさらとメロディーが出てきたそうですから、“天から降りて来た曲”なのでしょう。

4 SUNSET CORCOVADO

 フレットレス・ベースの温もりある音色が夕焼けに染まる美しい丘に響く。コルコバードの丘は巨大な岩石がそびえ立つ山々やリオデジャネイロの街が一望できる、ブラジルを代表する絶景ポイント。

 「KORENOS」の『エイジアン・ストリート・スタイル』より、須藤満(b)の魅力あふれるバラード。

 いつもは縁の下の力持ちのベースが、包容力のある低音でメロディを奏でるのって素敵ですよね。男の色気を感じます。須藤さん、女ごころ鷲掴みです。

5 ALL ONE

 「何もうまく行かず全てをキャンセルして、ひたすら海沿いを車で走った。海は所どころで表情を変える。波の高さ、色、リズム。宇宙から見れば、全て一つの海なのに、、、。」

 今や世界的に活躍する女性ギタリスト 安達久美、二十歳の頃の揺れ動く心象風景。この頃からスケールが大きいですね。

 具体的には、久美ちゃんはこの時、太平洋~日本海~瀬戸内海と本州の海沿いの道を延々ひとりで走ったそう。さすが男前!

 「安達久美クラブパンゲア」『ウイナーズ!』は、久美ちゃんの記憶が飛んでしまうほど壮絶なレコーディングの末、出来上がった渾身の作。「All One」他の本人解説によるギター・フレーズ・タブ譜も付いています。

6 COYOTE

 カリフォルニア州マリブ内陸部。漆黒の闇に輝く星。旅人を照らす月。平穏で静かな夜、人家の庭先でくつろいでいるコヨーテ。

 地球の夜を享受しているのは、人間だけではない。

 天野清継(g)がスケッチしたアメリカ横断の旅の一コマ。「フォーコーナーズ」の初アルバム『フォーコーナーズ』より。

 天野さんから届いた、この曲に関するコメントが素敵でしたので、そのまま紹介します。

    「カリフォルニア州マリブの内陸部にある音楽家の友人宅に泊まった時、夜になるとコヨーテがよく庭先まで来るという話を聞いた。平穏で風もなく室内と屋外の差が全く無いという何とも過ごしやすく静寂な夜でした。」

  「フォーコーナーズ」というアルバム自体が、スピリチュアルな旅をイメージして作られていて、雄大な自然に心遊ばせられます。

7 MY IDEAL

 月明かりは、全てのものを隈無く照らす。土岐英史の艶やかなサックスの響きも、生きとし生けるものすべてに注がれる。珠玉のスタンダードナンバーに新たな命が吹き込まれた。

 ジャズ&ポップスシーンで三十年以上にわたり活躍し、土岐さんのサックスは「日本人なら一度はどこかで聴いたことがある」と言っても過言ではないでしょう。

 周りからの強い要望で十四年ぶりに出したソロアルバム『THE ONE』より。

 レコーディングまでの数年間、土岐さんの頭の中ではずっと「マイ・アイディアル」が鳴っていたのだそうです。でもライブで演奏することもなく、温め続けていたものを一気に出したのがこの作品です。

8 PANGAEA

 約四十五億年前、地球は一つの大きな大陸「パンゲア大陸」だった。地殻変動とともに五大陸となっていく、壮大な時空間の流れを描いた安達久美(g)の大作。

 地球上には神業としか思えない自然のアートが存在するが、城崎の玄武洞もその一つ。安達はここでタイムスリップした。

「安達久美クラブパンゲア」『リトルウイング』より。

 寒暖を繰り返しながら進化してきた地球に敬意を表して作ったのだそうです。その感性が久美ちゃんの世界観を作っているように思います。

 バンド名と同じタイトルですので、各メンバーにとっても思い入れのある曲だということがうかがえる熱演です! このアルバムのクライマックスに持ってきました。

9 LOTUS

 このアルバムのラストチューンは、お経とギターのコラボ作品。聖なるものと向き合い、岡本博文(g)がたどり着いた境地。

 どうか今日も安穏な夜を迎えられますように。鎮魂と平和への祈りを込めて最後に入れました。

 私がプロデュースした『慈愛LOVE』より。このアルバムでは山下洋輔(p)、日野皓正(tp)、安達久美(g)も独自の表現でお経と共に音を紡ぎました。

 数年前、京都山科勧修寺にある佛光院の皆さまのお経をレコーディングしました。そのお経があまりにも素晴らしく心洗われるものだったので、宗教の壁を越えて沢山の方に聴いてほしいと思いました。4人の素晴らしいアーティストがお経に向き合い即興演奏をしてくださり、一枚のアルバムになりました。

 このアルバムは、RAGMANIAの個性的な作品たちとの出会いの場になればと思い制作しました。 MFRを聴いて気に入った曲がありましたら、ぜひアルバムを丸ごと楽しんでいただけたらと思います。