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【作詞入門】K-POPアイドルの楽曲を訳詞と作詞でひもとく

【作詞入門】K-POPアイドルの楽曲を訳詞と作詞でひもとく
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数年前、大晦日に行われたNHK紅白歌合戦に何組もの韓国アイドル(歌手)が出場しました。

政治と擦り合わせた議論に無理矢理持ち込みたい人たちには格好の話題とはなりましたが、個人的には、せめて音楽やスポーツだけでも政治の世界を越えてheart to heartに人々の心に伝わって欲しいです。

もはや、韓国アイドルは終わってしまった……かのような風潮(?

)ですが、昨年は韓流アイドルグループのTWICEが紅白歌合戦に出場しました。

BIG BANGや防弾少年団の勢いも止むことを知らず、韓流音楽は若者の間ではすでに流行り廃り関係無いスタンダードミュージックとなっているのではないでしょうか。

今回はそんな韓流アイドルの楽曲を訳詞する、また楽曲そのものを作詞の視点からひもといてゆきたく思います。

お手本神曲:Apink|Mr.Chu(On Stage)

日本語バージョンの作詞はShoko Fujibayashiさんです。

訳詞の世界

一昔前よりも訳詞の仕事が多くなっています。

コンペを通過するのはなかなか大変ですが、私の所にもたくさんの訳詞が依頼されます。

これははっきりと韓流アイドルや、台湾、中国のアーティストの日本の音楽界進出のおかげです。

ちなみに(広い意味で)訳詞された楽曲で好きなものはWinkの『愛が止まらない』です。

カイリー・ミノーグの原曲『Turn It Into Love』を元に及川眠子さんが作詞(訳詞)しました。

訳詞というと何となく辞書を右手に、文法書を左手にうんうんとうなりながら外国語を日本語に訳す、そんなイメージですが、実はこれは違います。

外国語の直訳はすでに翻訳のプロの方がしてくれています。

作詞家はその日本語に訳された歌詞を見ながら、リズムにメロディに音符に文字数を合わせていくのが主な仕事なのです。

そう聞けば誰にでもできそうだな、とは思えますが、訳詞はただただ文字数を楽譜に合わせるだけではありません。

リクエストあれば、元の歌詞の世界観を壊さず「イメージを媒介として意訳する」のも重要な作業の一つなのです。

まさにここがプロの技の見せ所です。

例えば歌詞の一部分

I will kiss you in the elevator.

を、「私はエレベーターの中であなたにキスをするだろう」

にするのは直訳です。

ですが英語の母音の数と、発音した尺(長さ)からすると、この直訳のままでは音符にはのらない、上手く音楽にはなりません。

経験則だけですが、このくらいの長さの英語なら日本語の十文字程度、またはそれ以下程で収めなければなりません。

そこでこの英語の歌詞を

「部屋まで待てない」

はどうだろうか、と提案するのです。

遅速の感覚を素早く音符に畳み込む、これは作詞家の技だと言いたいです。

映画の吹き替えを制作している翻訳家さんもこれと似たような仕事をしていると思います。

ただ翻訳は長さ(時間)は気にしても、作詞家ほどリズムや音符の数、抑揚は気にはしないだろうと思います。

上歌詞、多少セリフっぽい言い回しが許される流れで、譜割が合うようなら

「今キスしていい?」

の歌詞も許されるのかなと思います。

イメージは必ず比喩を呼びます。

その比喩が後々の作詞活動に大いに役立ちます。

訳詞に縁の無い方でも、作詞家さんの訳詞と原曲の直訳を見比べるのは大いに勉強になることでしょう。

世界観を重視して

多くの場合、「元歌詞の世界観はなるべく残して訳詞に当って欲しい」ということが作詞家に要求されます。

PVが先にでき上がっている場合などは「PVの世界観をなぞって」と。

例えば、宇宙が出てきたり、人間が扮したウサギの泣き顔が出てきたりの物語……ならそのPVの世界に歌詞を寄せて行かなくてはなりません。

皮肉交じりの物言いですが、精神的に不可解な情念をどこかに置く作業は十分に必要です。

この楽曲の場合はどうだったのでしょうか。

直訳と歌詞を一部分照らし合わせてみましょう。

直訳部分は翻訳アプリを使いながら最大公約数を摘んだものです。

一回会えば二回会いたくなる

二回三回と会えば もっと抱きしめたくなる

あなたとペアリング 指にして

この道を一緒に歩きたい 私

さっき会えた ばかりでも

帰り道ひとり……会いたくて

ペア カップルリング カップルリング

おそろいで 手をつなぎ歩きたいな

比べて分かります様に、同じフレーズの韓国語を日本語に訳すと韓国語の方がたくさんの情報を内包しています。

英語の歌詞を日本語にする時にも同じ現象が起こります。

言語学の専門家ではありませんのでたまたまかもしれません。

どの言語でもそうではあると思いますが、韓国語は特に一単語の内に豊饒過ぎる世界を持ち合せている感じがします。

いずれにせよ、そのままの情報量を残して日本語の歌詞にする事はできません。

元意味を残しながら言葉を取捨選択し、作詞家本人の色付けもしていくのですから、訳詞は「何も無い」所から書き出すよりもずっと難しいと言えます。

歌人の俵万智さんは与謝野晶子の『みだれ髪』を元に歌集『チョコレート語訳 みだれ髪』を出版しました。

これは現代語版『みだれ髪』と呼べる代物です。

私も読んだことがありますが、一流の歌人を相手にこんな言い方をして失礼なのですが、これこそ巧まずにじみ出る言葉の職人芸だと言えます。

発想を類似させながらも、現代語で知識を構築し短歌的なオチも一首一首に付ける。

言葉の知的操作は努力ではどうする事もできない分野でもあるのかな、とも思います。

アイドルチックな比喩

Mr.Chu くちびる Chu! キラメキ Chu!

薔薇色の世界が

ふわふわ回る 初めてだよ

可愛いサビです。

聴いてもらうと分かるのですが、楽曲にうまく乗ったChuの部分は多分に中毒性があります。

ここでは元歌詞をいかしてChuをそのまま使っています。

「薔薇色の世界」の言葉はかなり手垢のついた歌詞で、日本の歌謡曲をさかのぼれば幾らでも出て来そうなフレーズです。

この何てことないフレーズに胸がキュンキュンくるのですから、耳から入って来る言葉とは魔訶不思議なものです。

「ふわふわ回る 初めてだよ」の部分、決して成熟した言葉の歌詞ではありませんが、このグループのカラー「ピンク」の範疇に属する言葉群です。

グループカラーを逸脱しない歌詞もアイドルの楽曲の歌詞を書く者にとっては大切な立ち回りです。

チョコよりスイートなKissをして

Oh ダーリン

君の名前 Mr.Chu

「君の名前 Mr.Chu」は原曲では「あなたは私だけのもの Mr.Chu」となっています。

恋心を寄せる相手の唇は自分だけのモノ、そのようなことの比喩が上手く「Mr.Chu」の一言に込められているのですから、原曲の歌詞も練りに練られた歌詞なのでしょう。

比喩には

散文的でもなく、文学的でもない、この「Mr.Chu」のようなアイドルチックな比喩はこれからの歌詞のお手本となり得ることでしょう。

約束のKissプリーズ

心変わりNG!

傷つけないでね Baby

音の質にもよりますが、ここの「Kiss」「NG」「Baby」はバランス良く置かれていると思いました。

誠に構成がメカニックで、アクセントのよう英単語がポツポツと置かれています。

キメとなる所で英語を多用する作詞家もいますし、サビはかならず日本語でという方もいます。

私は特にこだわりはないのですが、最近のアイドルの楽曲の歌詞は英語が少なくなったなあと感じます。

まあ「キス」や「ベイベー」がすでに日本語であると思える世なのですから、小難しい英語を使うよりも「好きだー」っとストレートな歌詞の方が逆に心に響くのかなと思います。

英語をあまり使わない作詞家さんの方は積極的に英語を使ってみてください。

今よりもずっとライム(韻を踏むこと)を意識できるようになりますので。

お手本神曲:BLACK PINK|PLAYIING WITH FIRE

https://www.youtube.com/watch?v=GnDmLiVU3UQ

作詞家はTEDDY / Emyli さんです。

グループカラーと表層としての言葉

先ほど挙げたApinkのイメージカラーはピンクです。

そしてこのグループBLACK PINKのイメージカラーは、PINKの文字が入っているにもかかわらず、黒だと思います。

日本風でない湿度無い黒色

研ぎ澄まされた楽曲とスタイリッシュないでたちから、とてもクールな黒を連想させます。

このピンクの文字を持つ二つのグループは」、お互いのテリトリーに立ち入らないと言うより、各グループがそれぞれ我が道を突き進んでいるイメージです。

日本のアイドルはどうでしょうか。

現役のトップアイドルをざっくり分けると……の様な書き方をすると多方面から御叱咤の御意見頂く事とはなりますが、あえて分類すると(あくまで個人の感想です)

とでもなりましょうか。

お互い同じ時代を生きている意味ではライバル関係なのですが、微妙にそれぞれのフィールドを守っている様にも感じられます。

各自グループカラーを壊さない、とても忖度行き届いた歌詞にも注目できます。

例えばスターダストのアイドルが歌う楽曲にはドロドロとした恋愛は出て来ませんし、夜の恋を匂わせる言い回しもありません。

おそらくどのグループにもタブー単語や暗黙の了解とした言葉の聖域があるのでしょう。

離合集散定めないアイドル界では無理もないことですが、ただその「タブー」がグループの活動の幅を狭める場合もあります。

歌詞だけから読み解けば、その意味ではハロプログループが一番硬軟幅広いフィールドを用意してアイドルを育てている様に見えます。

もちろん歌詞の言葉から推測できるのはアーティストのほんの一面に過ぎません。

話を戻します。

ビジュアル、楽曲からしてBLACK PINKは韓流で一番クールなグループです。

はやりの洋楽を意識した楽曲作りは単なるアイドルの域では収まりません。

アイドルやアーティストの呼称ではフォローし切れないほどの大物感があります。

ママは言うわ

男には気をつけなさいって

愛は火遊びみたいに

火傷するから

ママにいつも言われてたの

男には気をつけて

恋は火遊びみたいで

ケガするからね

元歌詞、日本語歌詞、どちらも同じ様な意味に収まっています。

極力元歌詞を尊重するように作詞家が言葉を起こし、寄せています。

特に歌詞中「愛」を「恋」と置き換えている所にはドキッとさせられました。

日本人の言葉にとって「火遊び=恋」の認識はある程度はあるかと思います。

大袈裟に言えば言葉はその国の歴史の凝縮、また言い換えれば個人の経験の表層で、この「愛」か「恋」かの言葉は絶妙に変換されたものだと感じました。

日本人の感覚では遊びもありえるのが「恋」なのであって、おそらく重く集約された「愛」だけは、遊びに汚される事なく常に普遍的なものであって欲しいとの願望が込められているのでしょう。

単なる一楽曲の訳詞ではありますが、愛さえも火遊びと受け止められる大陸系的な恋愛観の懐の深さを思いました。

世界共通の歌詞言語

もう一つ上の歌詞の中で気になった所は「ケガ」のカタカナ表記です。

怪我と書くと切り傷やひっかき傷を連想させますが、カタカナの「ケガ」はそこまで重くありません

また「心のケガ」等の表記には比較的浅い恋愛での失敗を連想させる「軽み」もあります。

譜割りの関係で「ヤケドするからね」と歌詞を置けなかった都合もありますが、そのピンチを逆手に取って上手く言葉をあてたなと思いました。

以前にも言いましたが、歌われれば「怪我」も「ケガ」も「けが」も関係ありません。

歌詞は非文学であり、良い意味で反文学の精神さえも持ち合わせませんが、歌詞は歌詞なりに高いレベルで言葉の世界を構築する責任が作詞家にはあると思いたいです。

歌われてこその歌詞ですが、そのくらいの矜持は必要なのだなと心にいつも留めておきたいです。

震える恋心は

On and on and on

君に捧げた

あたしの全てを

Look at me Look at me now

君のせいだよ

韓国の人口は日本の約半分ほどです。

なので、韓国の企業は韓国国内だけをターゲットの市場としていては大きな売り上げは見込めません。

そこで、初めから世界を相手にしたモノ作り、コンテンツ作りに励んでいると聞いた事があります。

もちろん、同様に韓国のたくさんのアーティストたちは世界を股にかけた活動をしています。

歌詞の中に英語が多いのはそのためです。

サビがガッツリ英語というのも珍しくありませんし、半分近く英語の歌詞というのもあります。

上の歌詞の英語の部分は元歌でも英語です。

歌詞の一行置きに母国語を入れるパターンが多く見られます。

この例は日本のアーティストにも多いので、作詞の一つの型として覚えておけばいいと思います。

英語で示して、それを単に日本語にして追い掛けている歌詞も多いです。

I want to close you. 君のそばにいたいんだ

の型です。

多用すると面白みがないのですが、気軽に使えるコンビネーションです。

火傷しちゃう 消せない

この恋は ブルチャンナン

「プルチャンナン」は火遊びの意味です。

燃え盛る恋の炎、恋の火などの言い回しは世界共通の歌詞言語ではないかと思えるくらい目にします。

恋の火と言ってふとドアーズの『ハートに火をつけて』を思い出しました。

訳をしたのは鏡明さんです。

この楽曲の原題は『LIGHT MY FIRE』です。

同じ英語の歌詞が楽曲の中では「おれを燃やしてくれ」と言葉を変えて使われています。

こんな使い方もあるのだなと訳詞にはたくさんの勉強の素を発見できます。

ちなみにドアーズのジム・モリソンは、THE DOORSの連名を含め、100ほどの楽曲を残しているのですが(もっとありましたらファンの方申し訳ありません)、fire(火)の単語を他の楽曲の歌詞にはほとんど使っていません。

この『LIGHT MY FIRE』に思い入れがあってのことか、はたまた偶然なのか。

本人亡き今、調べよう、聞きようもないのですが。

もう 抑えられない

猛スピードで広がる火

ねぇ 止めないでよ

灰になるまで焼き尽くして

昔のロックに多用されていた歌詞や単語が今アイドルの楽曲に多く登場しています。

往年のガールズロックがアイドルの形をまとって再出している感はあります。

上単語「抑えられない」「猛スピード」「焼き尽くして」は典型的な恋の歌の歌詞です。

ロック全般に出て来る歌詞でもありますので、その辺りがBLACK PINKのクールさを過剰なまでに演出していると言えます。

気負いに似た詠嘆さえも感じさせ、全てをパフォーマンスで決着つけようとする彼女たちの姿勢は、これからもますますファンを増やすことでしょう。