ピアノの先生がBABYMETALを調性で分析。BABYMETAL DEATH、メギツネ他
ここでは、BABYMETALの楽曲を「調性」で分析し解説していきます。
作曲などのヒントなどになれば幸いです。
楽曲のイメージと調性

http://o-dan.net/ja/
多くの楽曲には、拍子、「調性」、和声(コード進行)、メロディーなどがあります。
さて譜読みを始めよう、と思った時には、拍子と「調性」を一番初めに確認します。
また、演奏会をしようと思った時、曲順を決める際には、「調性」を強く意識させられることがあります。
CDを作る際にも、曲順と「調性」の関係は密接と思われます。
作曲をするとき、まずイメージから、拍子と「調性」を考えます。
このように、意識的に「調性」を感じるということがかなり多いのです。
ある時、趣味で音楽を演奏したり、聴いたりしている夫と話していると、非常に驚かれたことがありました。
「THE ONEが神々しいのは、嬰ハ長調だからだね。
作った人もこの調を選んでるよね」
といったところ、
「えっ!?
そうなの?
『調性』に感覚が操られているのが、とても恐ろしい」
との反応が返ってきました。
そこで、面白いと思い、BABYMETALの楽曲を「調性」の面から分析してみることにしました。
全曲の解説を4回に分けてお届けいたします。
「調性」というのは、クラシック音楽においては、意識的に用いられてきたもので、「共感覚」とも結びついていることもあるようです。
共感覚については、別の記事で書くことにしますので、今回は触れません。
私も、作曲するときは、先ほども触れましたが、イメージに一番近いと思う調を選択します。
それは、私の感覚ではありますが、微妙な違いではありますが、書籍で紹介されているものでもあります。
現在絶版ではありますが、以下のサイトにまとめてある、調の特性です。
原書で言葉で表現された方、大変すばらしいと思います。
調性と主音、また、調号(♯や♭)に関して、簡単に書くこともできますが、長くなるうえにお勉強になってしまうので、ここでは省きます(笑)。
楽曲の分析
では、調の特性から引用した言葉とともに、各楽曲について、分析してみましょう。
念のため調号である♯や♭の数も併記します。
♯や♭が多いほど、より色濃い印象になっていくと私は感じるからです。
また、長調(明るい感じ)と短調(暗い感じ)で調号(♯や♭)の数が同じだと、転調しやすかったり、関係があったりします。
また、選ばれる調は、演奏のしやすさも関係していると思います。
ピアノですと、♯や♭が増えていくほど黒鍵がたくさん入ります。
そしてより弾きにくく、歌いにくく、音も取りにくく、より意味深な感じを醸し出します。
BABYMETALの曲は、弦楽器(ギターやベース)で演奏されるため、多く演奏される調というものが存在します。
メタルといえばこの調というものが存在します。
解放弦である、E(ホ調)・A(イ調)・D(ニ調)・G(ト調)です。
それぞれ、長調と短調が存在し、また、パワーコードで主音のベース音のみを特に強調したコード進行も存在します。
さらにダークな表現をするため、現在7弦目のB(ロ調)も存在します。
さらに、半音下げ・一音下げチューニングなどを行うBABYMETALなどの楽曲は、よりダークなメタルを感じさせるような調の選択ができるようになっていると思われます。
調の観点から分析することは大変興味深く、より曲を深く理解できます。
今演奏している楽曲についてもより深く感じることができるうえ、作曲や編曲にも生きるはずです。
何よりも、一緒に楽曲の良さを知り、BABYMETAL を楽しみましょう。
では、1曲ずつ見ていきましょう。
本当に面白い世界が見えてきますよ。
(※ここから先、色をつけたいところですが、色と印象の関係は私には知識がなく、誤った印象を伝えることを避けるため、色はあえて付けませんので、ご了承ください。
)
BABYMETAL DEATH
変ロ短調(変イ短調と共に葬送行進曲向き。
陰暗で憂鬱で悲劇的)調号♭5つ
この曲は、1stアルバムにある冒頭の曲です。
このCDはヘビーメタルであることを、印象付けるような曲ですね。
いきなり、7弦目のBを半音下げチューニングした調だからです。
歌としては名前を名乗るだけの、自己紹介の曲です。
しかし、音楽の方は、強いヘビーさを主張しています。
一音下げチューニングをした方が低いのですが、そうしなかったのは、変ロ短調という調性の魅力を利用したかったからだと思います。
一音下げてしまうと、イ短調という調になり、調号はなしの比較的穏やかな調になってしまうのです。
イ短調の特性は(単純素朴な柔らかい悲しみ。
最も女性的、敬神的な諦めに似た感情も出す)と言われています。
半音でこんなにも感じが変わってしまうので、本当に気をつけたいところです。
メギツネ
ヘ短調(悲惨な調、憂鬱、暗い情熱)♭4つ
https://www.youtube.com/watch?v=cK3NMZAUKGw日本的なものを表現しやすいと思われます。
ちなみにヘ短調を使った曲は、アルバム内ではこの曲のみです。
日本の曲といえば、まずは国歌です。
国歌はニ短調に似た、日本特有の音階です。
このニ短調の雰囲気に近い、でも、安定していない興奮を感じるのがこの調で書かれたメギツネです。
ニ短調にしてしまうと、渋さが出てしまいます。
キャラクターとの差が開き過ぎです。
また、低い音程を響かせることは当時のsu-metalにとってはまだ子供すぎてできない音域になってしまいます。
ちなみに、ヘ短調で検索すると、以下の曲が私の目に留まりました。
この曲もヘ短調です。
こちらは和太鼓を意識した音が聴こえてきます。
夏祭り – Whiteberry
ギミチョコ!!
Eのパワーコード、またはホ短調(悲歓、悲痛、不安。
早い曲では激烈なものとなる)♯1つ– ホ長調(輝かしく、温和で喜ばしい。
高貴の調)♯4つ
前奏で、Eからその下の7弦で用いる音域の音があります。
最低音がEではないことから、Eの軽さは失われ、ダークな仕立てとなっています。
歌に入る前からは、ベースラインがE-Fをくりかえしています。
Fがでてくるので、ホ短調ということはできませんが(ホ短調だとF♯)、ホ短調の性質をも含んでいますね。
狂った世界観は、調にも表れているということでしょうか。
パワーコードだけで曲を支配すると、BABYMETALではなくなります。
サビ部分でホ長調になることで、BABYMETAL特有のキラキラした感じが出てきますよね。
しかし演奏はEのまま進んでいきます。
第3音であるC♯がサビで出てくることで、演奏もホ長調になっていますが、基本的にパワーコードです。
METAL感を含んだまま、BABYMETALを表現した1曲です。
たぶん、ホ長調になったことが画期的だったのでしょう。
また、「BABYMETAL DEATH」「メギツネ」が♭系の調なのに対し、この曲は♯4つという、かけ離れた調への驚きもあります。
Eのパワーコードを持ってくることで、違和感なくギミチョコ!!
に入れます。
いいね!
嬰ハ短調(最も陰暗な調の一つ。
残忍、皮肉、悲愴、不気味)♯4つ– ト長調(若人の調、誠意、冥想、優美。
静かな田園的な風情。
春の調ともいう)♯1つ
ギミチョコ!!
と同じ♯4つの調です。
この流れはとても自然です。
しかし何と!
サビのところで、いきなりト長調への転調が起こります。
突然さわやかになりました。
健全な感じもします。
ト長調といえば、私は「青空」を連想します。
ダークな世界は「夜」を連想させます。
思いっきりBABYMTAL寄りにぐっと引き寄せたのですね。
親しみが起こるのはこのせいかと思います。
嬰ハ短調でメタルを表現したんです。
そして、実はサビの前で同じ♯4つのホ長調に行くと見せかけています。
「一人きりで~」のところです。
ホ長調とはギミチョコ!!
で一度出た調性です。
しかし、まさか、ト長調に行くとはだれも思いません。
期待を裏切り、(あえて予感的なものといえば、サビに入る二つ前のコード「A minor」である)その三度上のト長調に行くという、驚きの展開を、サビで行なっています。
サビが終わると、もとの嬰ハ短調へすぐに戻ります。
これだけ思い切ってト長調に入り、すぐ何だったのだろうというような感じですぐに戻られてしまうと、またト長調のサビが来ることを期待せざるを得ません。
メタルとアイドルの融合をテーマにしたように思います。
紅月-アカツキ-
嬰ヘ短調(暗く神秘的、妖怪的、同じに情熱的)♯3つ
su-metalのキャラクターをどのように作っていくか、と考えて、この嬰へ短調という調を選んだのだろう、と思います。
同じ♯調のロ短調♯2では、少し「か弱い」感じ、嬰ハ短調♯4だと、強い感じ、男性的。
メタルそのものの感じすらします。
嬰ト短調♯5は、美しい。
これもいいんだけど、歌の音域が高くなりそう。
紅月はこの調でもいい感じがします。
高い音が問題なければですが。
この嬰ト短調という調の曲は、同じく♯5つのロ長調とともに、まだBABYMETALには使われていません。
少し大人っぽい曲が合うような感じがします。
次のアルバムでチャレンジするのではないかと思います。
勝手な予想と希望でした。
なにも根拠はないですよ(笑)。
やはり、程よくメタルと美しさを合わせられそうなのが嬰へ短調なのかな。
また、比較的長い曲であるにもかかわらず、嬰へ短調で首尾一貫していることから「1つの強い信念が通っている」ということを表現したように、感じます。
ド・キ・ド・キ☆モーニング
イ長調(輝かしく確信と希望に満ちる。
単純、純粋、快活、誠実な感情に適する)♯3つ
紅月と同じ♯3つの調で始まるので、調性という観点からすると曲のつながりに違和感はないということになります。
なぜ違和感がない、と言えるのかというと、調性には、近親調という考え方が存在します。
♯や♭が同数の長調と短調(ここでいうところの紅月の嬰へ短調とドキドキモーニングのイ長調)は近親調です。
使われている音階が基本的に同じものを使うことになるので、長調と短調の違いはあれど、同じ音が多いので似ているのです。
また、ハ長調とハ短調のように、「ハ」の部分が同じでも近親調ですし、♯や♭の数が隣同士の調でも近親調です。
いきなりサビのメロディから始まるこの曲ですが、実はサビのところだけがイ長調というほとんどメタル寄りの曲です。
そしてメタルの部分が、AまたはDのパワーコードを軸に動いています。
だから、フロントの3人の可愛らしさを表したサビの部分ですが、実は曲全体からするとほんの1部なのに、サビで始まりサビで終わる、そしてサビだけ底抜けに明るいイ長調ということで、とても印象が強い作りになっています。
もちろんメロディーやリズムの影響も大いにありますが、ここでは調性についてのみ追及することにします。
美味しいところだけ持っていった3人、というわけですか(笑)。
カワイイから許してね、という感じですね。
ダークな部分のギターのリフは「ド・キ・ド・キ☆」を表現していますよね。
ホント、邪悪すぎてドキドキしてしまいます。
おねだり大作戦
ハ短調(柔和の中に、真剣な情熱を持つ。
悲劇的な力、超自然的な感情、激烈な感情)♭3つ
この調は、大変強く、ただただ恐怖を感じます。
あまり複雑な感情を抱かせることはなく、まさに、超自然的な強さを感じ続けます。
「BLACK BABYMETAL」はBlack Metalとのつながりを意識したものだと思いますが、BLACK、つまり黒は、ハ短調にとてもよく似た印象で、おそらく、ハ短調をBLACK BABYMETALの調と定めたのではないかと思います。
そんなBLACK BABYMETALがおねだりをする、黒い心もしっかりみえる、かけてますね〜。
このハ短調、実は2つのアルバムを通してこの1曲しかありません。
BLACK BABYMETALとしての新しい曲が、きっと次のアルバムで出る!
ことを期待したいですね。
以上、1stアルバムの前半を分析してみました。
通しで分析したいので切りたくないのですが、あまりに長すぎるので、続きは次回の記事で!
お楽しみに。