【作詞入門】ヒットチャートから作詞のヒントを探る
IZ*ONE日本3rdシングル『Vampire』。
今ティーンの間で一番のトップトピックとなっているのが、IZ*ONEの楽曲だと思います。
オリコンのヒットチャートでも2曲続けて1位を獲得したのですから、ダウンロード世代にとってもCDのジャケットや添付特典は見逃せない必須アイテムなのでしょう。
今回はハロウィンをも意識している??IZ*ONE日本3rdシングル『Vampire』の歌詞を読み解き、皆さんの作詞のヒントとしてみたいです。
お手本神曲:IZ*ONE|Vampire
秋元康の回路、強い女性像
歌詞は完全に「作家論」という方法で鑑賞を進めています。
当たり前のように思えますが、あえて一度触れておこうと思います。
ここでいう作家論とは、わかりやすく言えば、歌詞とそれを書いた本人を切り離さずに楽曲を考えるものです。
言うなれば、長渕剛の歌詞は長渕剛の一部分であり、その言葉には彼の分身が宿っていると考えることです。
ちなみに「テクスト論」とはその反対で、例えばマリリン・マンソンが「殺せー!」なる歌詞を書いたとしても、それはマリリン・マンソン本人の言動や彼の思想とはまったく関係ないと考えるものです。
『Vampire』の作詞は大御所・秋元康さん、多くの説明はもはや不要でしょう。
この時期にこの題名を充てて来るのだから、どこかハロウィンをターゲットとしている節があると思います。
私はある時期に定番としてはやり出す楽曲や歌手を「シーズンエリート」と呼んでいます。
チューブしかり、山下達郎の「クリスマスイブ」しかり。
歌詞を書く時はそのようなことも意識しています。
最近ハロウィン時期によく耳にする曲はAKB48の『ハロウィンナイト』、でんぱ組.incの『永久ゾンビーナ』、きゃりーぱみゅぱみゅの『Crazy Party Night~ぱんぷきんの逆襲』ですが、クリスマスソングに比べるとまだまだ定着度も低く、ライバル楽曲も多くはありません。
うまくマスコミが反応さえしてくれれば、この楽曲もハロウィン商戦に噛み込めるかも知れない……それならばと、秋元さんの回路なら常に二手三手先を考えて動いていてもおかしくはありません。
楽曲を聴いてもらえればわかると思うのですが、どちらかと言えば最近の韓流ソング調よりも2000~2010年代の日本のアイドルソングに近いものがあります。
サビの
もしヴァンパイア なれるのならあなたに噛みつきたい(その喉元)
の歌詞には自分からグイグイ動けるパワフルな女性がいます。
テンポのいいサビの畳み掛けが受け手の共感を得る見事な表現となっています。
またこのサビの部分は、今のティーンにはわかりやすく新鮮なメロディーラインに聴こえるのではないでしょうか。
逆にある一定の年齢層の人にすれば既視、既聴感があること間違いないです。
またその「どこかで聴いたことあるなあ」的感覚がイヤにはならない程度なのですから、サラッと書いたメロディのように聴こえて、実は練りに練った楽曲なのかなと思わせるのです。
普通なら、不本意ながらゾンビに噛まれてゾンビになってしまうのと同じで、ヴァンパイアに噛まれて結果的にヴァンパイアになってしまう……と能動的に相手を噛んでまで化け物?
に変化したいと思う人はいません。
この歌詞では「あなたを噛んで私もヴァンパイアになりたい」と、積極的な女性のアプローチをヴァンパイアへの変化を借りて表現しています。
自らをスキャンダラス化するこの歌詞は、ティーンの成長し切っていない語彙には多分に刺激的に映るとも言えます。
たどたどしい日本語を懸命に話す姿がかわいくも見えるIZ*ONEの韓国人メンバーたちですが、ひとたびステージに立つとキリッとしたアーティストに変化する、その硬軟併せ持つギャップもIZ*ONEの魅力の一つなのです。
その彼女たちの変化が、普通の人からヴァンパイアになってまで思う人を愛する歌詞と重なるのです。
Jポップらしい歌詞、キーワード
いろいろ国のメンバーで構成されているグループが流行しているのか、韓国では韓国人+外国人の形をとったアーティストが増えています。
これは恐らくマーケットが関係しています。
韓国国内だけをターゲットにすると市場が狭いので大した儲けにならない、そこで他の国のマーケットに進出しなければならない。
その足掛かりの一つとして外国人をメンバーに混ぜている、のだと思います。
韓国にとって隣国日本は大きなマーケットの一つなのでしょう。
日本語版の歌詞を充てるとまったくJ-POPらしくなるこの楽曲。
私はJ-POPを大きく「希望を歌う」「愛を歌う」「悲しみを歌う」の3つに分類しています。
もちろんこの『Vampire』は「愛を歌う」部類に入ります。
恋とは感染症 見えないウイルスのせい 予防するワクチンは 発見されてない
は「恋を病に例える」歌謡曲によくある古典的な発想です。
昔のアイドルならキャンディーズの『恋の病気』の歌詞
私は病気になりそうよ 薬も注射も効かないわ
今を時めく米津玄師なら『恋と病熱』
病熱を孕ませ夢を見ていた 盲いた目にみえた落ちていく陽
の歌詞はふんだんに詩的です。
その古典とも言える『恋の病』のモチーフが、この楽曲ではウイルスとワクチンのカタカナを得てリニューアルされています。
令和の時代になっても『恋は病』なのだから、作詞もそう難しいヒントがなくても……とも思えてきます。
段階や区切りを「チャプター」と表記するだけで随分おしゃれな感じになります。
古いモチーフにカタカナの要素を足すだけでも歌詞の題材には不足しないことでしょう。
さっそうとカッコイイ男性の暗喩としてヴァンパイアを登場させていると思うのですが、その例えに品格があります。
こんな大胆な例えの装置を構えてしまうと、恋愛ソングそのものが白けてしまう例もあるのですが……秋元さんの言葉のセンスが光っているのではないでしょうか。
ちなみにウイルスは秋元さんが好きなワードの一つで、彼の歌詞の中に何度も登場します。
もう一つのキーワードは恋愛的な「溺れ」だと思う歌詞が随所に顔をのぞかせます。
でもヴァンパイア分かってても あなたに抱かれましょう(腕の中へ) もうヴァンパイア拒否できない ハート盗まれたの
どっぷり男の虜になっています。
それでいて自分を完全には失っていない女性らしい主体性も見え隠れします。
ティーン(ここでは主に女子)の共感を得られるシーンにはいつも強い女性像がそのイメージを支えています。
これはどこかテレサ・テンの歌に出てくる女性像とダブる所もあります。