【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。キーワードから作詞編
「キス」は「愛」「夢」などと共にアイドルの曲に一番出てくる主要なキーワードの一つです。
今回はこのようなキーワードを軸に作られている歌詞の解説をしていきたいと思います。
キーワードから作詞する
「キスしたい」「キスして」「キスしようよ」は、実にアイドルらしい、ピュアな論争を引き起こすことのないストレートな表現です。
流れある物語を書き追うだけでなく、純粋にキスだけで歌詞を書く事も可能です。
アイドルではありませんが、キスで思い浮かぶ曲は電気グルーヴの「Shangri-La」(シャングリラ)です。
「夢でKISS KISS KISS KISS KISS KISS 何処へも何処までも」の「キス」には都会派ならではの究極に無機質化された肌触りを感じます。
お手本神曲:10COLOR’S|Kissしてfor me‼
作詞はSHUNさんです。
言葉の記号化
最近ではトップアイドルでもメンバーの脱退や卒業はある程度仕方のないものとなっています。
10COLOR’Sも幾多の涙を乗り越えています。
そして、これからも、どんな困難であっても、必ずや乗り越える事が出来るアイドルだと信じています。
そんな幾多のメンバーの変化の中、変わらず愛され、歌われている曲の一つが「Kissしてfor me ‼」です。
頭サビから「お願いKissしてfor me 早くKissしよfor you」と惜しみなくキスが登場します。
しかしそのキスは下世話ないやらしさに一厘も傾いていません。
言葉は状況によりその意味を深める(増やす、変化させる)事もあります。
キスが記号化されているとでも言いましょうか、この歌に登場する軽快で清澄なキスは言葉の意味がすでにアイドル化しています。
多人数(10COLOR’Sは本来なら10人のグループ)で歌う事によっても、性的なキスの概念からキスが遠ざけられています。
やや記号化したキスを連発しても「キス」から女子特有のナイーブな情感を失わせないのが、このグループの魅力なのです。
湿っぽさのあるキスはアイドルには不向きでので、爽やかな歌詞の方向で進めるなら「キスの時間は0.1秒」をイメージしてください。
すると自然と歌詞がつながります。
グループで歌う意味
曲の流れに合いの手としてのカウンターワードが用意されているのもこの曲の妙味ある演出です。
例えば
- Kissはレモンの味→イチゴじゃダメなの?
- 呼吸をとめて歯があたらないように→注意!
♡妄想爆走中
- そんな焦らずに→タイミングあるの?
など、コンビのやり取りの様な形で曲が進められる箇所があります。
曲の中での掛け合いが次の歌詞を、さらに次の歌詞への期待感を高める、ボーカルパートを順番に回せるグループアイドル特有の演出です。
穏やかな歌詞の対比的な追い掛け、合いの手が、普通の言葉を単一の意味に執着させることなくアイドルにぐっと近寄らせます。
アイドルと歌詞が互いに支え合え、引き立て合っている構造です。
胸キュンなフレーズ
1番に入る前の長い「ちゅっちゅっちゅちゅちゅちゅちゅちゅ×3…」は心躍るパートです。
作曲家さんの腕に頼る所が大きいですが、平明な表現がこれだけ楽しいなら「歌詞って何なんだろな?」とも思います。
- したことないからわかんないよ
- 強引に引き寄せて奪ってほしいーゾっ!
表現という行為の喜びが字面から溢れているかのようです。
歌ってしまえば「欲しいぞ」も「ほしいーゾっ!」も関係ないですが、常に文字化された表現に気を配る事は大切です。
一番の秀抜パートは「じゃあいくわよ?
せーのっ!
っておらんのかーいっ!」です。
こんな胸キュンフレーズは即座に出て来るものではありません。
取捨選択する語調にも寄りますが、作詞者の身の内にストックされた素材の片鱗(へんりん)がこの曲には溢れています。
漫画や小説、絵画や俳句など教科書となる物は世の中に溢れています。
作詞家は実は作詞をしている時間よりも、作詞をしていない時間の方がずっとずっと大切なのかもしれません。
お手本神曲:バンドじゃないもん!
|雪降る夜にキスして
作詞は石毛輝さんです。
耳に残る言葉
歌詞そのものとは関係ないのですが、曲の組み立てが変わっていて面白いです。
進みそうで進まないAメロにハラハラドキドキさせられます。
平坦な感じのメロディーが雪夜のしんしんとした闇深さを物語ります。
一回聴いただけではサビの「まわるまわるミラーボール」しか耳に残りません。
それも作詞家の狙いなのかもしれません。
俗に言うキャッチーな歌詞とはまた別の話かと思います。
落ちサビ前の呪文の様な「雪降る夜」×3も効果的です。
前面に押し出していないにも関わらず、これだけ耳に残るフレーズがあるのは歌詞全体が成熟していると例えられましょうか、そこはかとなく文学的な匂いもします。
不思議感で押す
「キスしてバイバイ」と頭に「キス」が出て、もう「キス」の文字は出てきません。
「主役でないキス」が効果的に使われています。
このような題名の歌詞なら流れ的に、サビに「雪降る夜にキスしてー」と声を張る感じに無難に演出も出来そうなものですが、そうしないのが非凡の為せる業なのでしょう。
幸せなキスと不幸せなキスが二重映しの画像となって押し寄せます。
反射的に裏側にある物語を読んでしまいます。
普通なら「不思議だけの歌詞」ではどこか物足りなくなるのですが、この曲に関してはそれだけで寄り切られた感があります。
ファンの皆様には申し訳ないのですが、普通のアイドルチックな曲よりもこの「雪降る夜にキスして」のような曲がこのグループには合っていると思います。
心地良いハズシ
歌詞は「ポイ捨て ワタシはそんな運命」と退廃的な報われない恋を題材に感情だけを荒くつなげた、アイドルにしては一歩引いたものとなっています。
しかしながら、上記「ポイ捨て」の箇所、「あなたは今日もこないのね」にも「早く見つけて欲しいの」「隣にいたいの」とある程度の救いが用意されているので受け手の心の負担は少なく済みます。
この救いがないと歌詞が鈍く重いものとなります。
「題名のキスはいつ出てくるのかな」の思いが伏線のように引きずられて結局出て来ない。
受け手の期待を裏切る、心地よい「ハズシ」はそう簡単に作れるものではないのですから、やはりこの曲はお手本となり得るのではないでしょうか。
ライタープロフィール
アイドル作詞家・俳人
瀧乃涙pin句
何のツテもないまま作詞を開始。
数年後、文化放送ラジオドラマ主題歌『全身全霊Open Now!』song byガールズジョッキーまでたどりつく。
SPATIO『泣きそう』『レジスタンスガール』、SPATIO kids『温泉サンバ』、ナナエ『シューティングスター』『恋の話しよ!』他、ご当地アイドル、地下アイドルに歌詞を提供中。
週末はもっぱらアイドルを追い掛けている。
Twitter:t_pink_t