「坂本真綾の何がここまでミュージシャンを惹きつけるのか」
以下、5つに着目してその魅力を掘り下げていきたいと思います。
- 坂本真綾の概要
- 菅野よう子と坂本真綾
- 菅野よう子から巣立った坂本真綾
- 総評
- 楽曲情報
1. 坂本真綾の概要
そもそも、坂本真綾(さかもとまあや1980年3月31日-)は声優なのでそちらも少し触れておきましょう。
8歳頃から子役として活動し、声優として初の主役を1993年に獲得しました。
オタク的ところで有名所だとエヴァンゲリオン新劇場版の真希波・マリ・イラストリアス、黒執事のシエル・ファントムハイヴですね。
普通の人が知ってるような映画だと直近のアニメ映画「SING」のロジータの吹き替えを担当しました。
そして、洋画の吹き替えだとナタリー・ポートマンを担当することが多かったりします(声優というのは全作品ではないにしろ、海外の俳優さんの誰を吹き替えるかという担当がある程度決まってることが多いです)。
そして、舞台やラジオパーソナリティとしても精力的に活動しています。
そんなわけで、普通の方は「結構いい役をもらえて表舞台でバンバン活躍してる人なんだな……」という認識でかまわないです。
そして彼女を語るに外せないのが歌手活動です。
本格的なデビューは1996年(子役時代からCMソングは歌っていました)、今年でデビューして22年目です。
ラルクやGLAYとほど近い歌手活動の長さなんですね。
15周年ライブは日本武道館、20周年ライブはさいたまスーパーアリーナでやりました。
しかもCDに関しても、結構オリコン上位の常連で7枚目のオリジナル・アルバム「You can’t catch me」はオリコン首位獲得です。
声優でオリコン首位ってのは水樹奈々さん(この方もいずれ書きたい)以来、2人目ということです。
これらから、決して歌手活動だって声優としての合間にやってる程度のものではないということは理解していただけたかなと思います。
でも、「声優でしょ~?
音楽性なんて……」(僕はそんな風には見てません。
)みたいな見方をする人、いると思います。
ところがそんなことも言えなくなる、詳しい活動遍歴をこれから紐解いていきたいと思います。
2. 菅野よう子と坂本真綾
坂本真綾、という歌手を語るときに絶対に欠かせない人物がいます。
菅野よう子です。
菅野よう子は作曲家、編曲家、プロデューサーとして活躍する方でその活動内容は本当に多彩なのですが、大河ドラマや海街Diaryのような実写映画やマクロスのようなアニメ作品、はたまた紅白歌合戦の曲、コスモ石油などのCM……などなど、おそらく探せば聞いたこと有るなって曲はかなり作ってる方です。
最近実写映画化された「攻殻機動隊」の音楽もシリーズによってはこの方の担当だったりします。
さらに、惜しまれつつも解散してしまったSMAPやT.M.Revolutionなど、著名なアーティストにも数多く作曲、編曲の面で関わっており、その手腕は非常に高い評価を受けている方です。
そんな方のプロデュースを受け、当時はまだまだ声優としては無名だった彼女が1996年「約束はいらない」でデビューすると、同曲がアニメ「天空のエスカフローネ」のOPになり、彼女もメインヒロインの役を務めたことにより知名度を一気に上げます。
1997年にアルバム「グレープフルーツ」をリリースしました。
歌唱力や表現力はまだまだ未熟でしたが、その透明感は圧倒的で、初めて聞いた時には2005年でしたが僕もその芽生えを感じたものです。
そして1998年に傑作とされているアルバム「DIVE」を発表します。
彼女のもつ世界観や表現力が菅野プロデュースによって一気に花開いた印象ですね。
なお本作は1999年にはミュージック・マガジン誌において歌謡曲&ポップス部門1位に選ばれるなど音楽的にも高い評価を受けています。
そして、2001年にアルバム「Lucy」と初のコンセプトアルバム「イージーリスニング」、2003年に「少年アリス」をリリースして菅野よう子プロデュースはいったん途切れることになります。
これが菅野よう子時代の大まかな流れですが、この当時は「菅野よう子が手がけているから」という理由で聞く方も多かったと思います。
菅野よう子さんの手がける楽曲はポップでありながらも展開やボイシング(和音にするための音の積み重ね方のこと)が非常に凝っており、16歳から23歳という少女と大人の女性のたゆたう中でその幻想性やはかなさがうまくパッケージされた印象を受けます。
さらに音楽にも非常に挑戦的でアコースティックなものからドラムン・ベース、民族音楽調、ロックなど菅野よう子テイストながらも(作曲の幅広さもすごいですが)、曲ごとに非常に多彩なものを朗々とそして軽々と歌い分ける経験を積んだ「坂本真綾」というアーティストの秘められた才能が引き出されていく過程を見ているようでした。
どことなく神秘的であり純粋培養された坂本真綾ですが、彼女は「少年アリス」ですでに1人の女性としての成長を見せていたのでどことなくコンビ解消を察したファンもいたのではないかと思います。
そしてこの作品以降、自らの手で1人のアーティストとして大海におよぎ出す道を選んだのです。
3. 菅野よう子から巣立った坂本真綾
半ば、親子のような関係であった坂本真綾と菅野よう子ですが、独り立ちした坂本真綾さん。
そうは言っても決して不仲とかトラブルが原因ではなく、本当に巣立ちという言葉がふさわしいほどの円満なコンビ解消でした。
その証拠に菅野さんはいまだに坂本真綾さんのライブによく呼ばれてピアノを弾いたり、作曲編曲という形で幾度となく関わり続けています。
話を本筋に戻しますと、菅野よう子プロデュースを離れたあと、2005年にアルバム「夕凪LOOP」をリリースします。
この作品では作曲、編曲家のh-wonderとシンガーソングライターとして知られる鈴木祥子のような多彩なクリエイター陣を迎えて製作されました。
その音楽性は作り込まれてはいますが、菅野よう子の持つ神秘性や陰の強いものではなく、フォーキーだったり、普通のJPOP的な音楽性に近くでバラエティ豊かでした。
これが、新たな坂本真綾の名刺のような作品になり、それに伴い歌詞も今までのものより、菅野よう子の音楽性に影響をされたような詩的な部分を核にしつつも地に足の着いた表現が増えたように思います。
そして2007年には2枚目のコンセプトアルバム「30minutes night flight」をリリースしました。
30分の夜間旅行、をコンセプトに掲げた今作は収録時間もほぼ30分ぴったりに収まるように収録されています。
そして多彩なクリエイターとのコラボ、という前作で見せた姿勢は継承しつつ、前作にはなかった統一感を打ち出すことに成功しました。
そして、2008年にリリースした6枚目のオリジナルアルバム「かぜよみ」ではついに当時の自身のアルバムではオリコン週間チャート最高位となる3位を獲得するに至ります。
今作には菅野よう子が久々に作曲を担当したテレビアニメマクロスF(フロンティア)のOPにもなった「トライアングラー」が収録されています。
こちらはシングルとしてもリリースされましたが、オリコンシングルチャートで週間3位を記録し、出荷枚数は9.1万枚、さらにはゴールドディスクなどさまざまな賞を獲得しました。
この効果はアルバムにも大きく影響していると思います。
ちなみに普段の坂本真綾のキーよりも少し高めに設定されているそうです。
アルバムの作曲陣もかの香織、窪田ミナ、菅野よう子、鈴木祥子、北川勝利などジャンルが異なるアーティストが多く、渋谷系ポップスやきらびやかなアニソン的ポップさ、叙情的なバラードなど、多彩な曲調でも坂本真綾の歌声にかかれば途端に統一感を持った作品にできる、という彼女自身の菅野よう子プロデュース以降の活動の1つの結実と育まれてきたそのアーティストとしての底力を示した作品だと思っております。
マクロスFのメインヒロインの1人、ランカ・リーの歌唱曲「蒼のエーテル」では初の作詞提供も行い、アーティストとして活動の幅を広げたのもこの時期です。
そして、冒頭でも説明した作品、7枚目のオリジナルアルバム「You can’t catch me」を2011年にリリースします。
記録の面は割愛しますが、今作の特徴は何と言ってもクリエイター陣の豪華さでしょう。
菅野よう子、鈴木祥子、河野伸、北川勝利、作詞では岩里祐穂(真綾さんのデビュー時から携わっていて近年だとももクロの楽曲の作詞でも知られている)という従来の布陣に加え、柴田淳、末光篤、スネオヘアー、常田真太郎(スキマスイッチ)、桜井秀俊(真心ブラザーズ)、冨田ラボといった初の顔ぶれが作詞作曲編曲に携わっています。
さらに、カバーソングとしてシングルにもなった、原曲はシュガー・ベイブのDOWN TOWNを収録しています。
さらにプレイヤー陣に関しても各楽曲のプロデューサーの人選でさまざまなジャンルから現在音楽シーンで活躍しているアーティストが数多く参加しています。
toeやthe HIATUSでの非常に手数が多いながらもリズミカルで多彩なドラムを叩いてくれている柏倉隆史が一例ですね。
菅野よう子以降の真綾さんとクリエイターとのコラボレーション、という化学反応は今作でピークを迎え、ポップスからジャズ、ロックまでジャンルを横断するその姿勢はもはや少女であったはかなさのあるものではなくコラボしても失われることのない1人のアーティストとしての強さを示したように思いました。
2011年には冬景色というコンセプトをテーマに3枚目のコンセプトアルバム「Driving in the silence」をリリースします。
ここでの大きな出会いがラスマス・フェイバー。
ジャズ・ピアニストでありながらもハウス・ミュージックをベースに作曲編曲、DJで活躍するスウェーデンのアーティストで、菅野よう子とはまた違うアプローチの神秘性ときらびやかな電子音楽は菅野よう子以来、バンドサウンドや生音を主軸にした音楽を展開していた坂本真綾の楽曲の幅をさらに広げることになります。
2013年には8枚目のアルバム「シンガーソングライター」をリリースします。
今作では作詞作曲プロデュースを坂本真綾自身が行っており、歌詞も音楽性も今までより非常に素朴かつ身近な描写を切り取ったものが多い印象です。
そして今作以降、坂本真綾のセルフプロデュースになりました。
2015年、現時点での最新作「FOLLOW ME UP」では結婚という私生活の充実とアーティストとしての充実が見事にマッチしたような作品になりました。
the band apart、坂本慎太郎(ex.ゆらゆら帝国)、コーネリアス、さかいゆう、などそのコラボレーションの幅も広がりましたし、何よりも自身の作曲のレベルも前作に比べてはるかに進歩しています。
自身の作曲ですらどこかポップさと両立する凝った部分を見せるところに確実に菅野よう子の影響が見え隠れしていて個人的にはほほえましい気持ちになります。
4. 総評
坂本真綾、というアーティストの歴史みたいなものをつらつらと書いていきましたが、結局何がすごいのか?
ということを自分なりに申し上げますと「圧倒的な透明感と両立させる雑食性」ということに尽きるのではないかなと思います。
菅野プロデュース時代ではその神秘性と透明感を武器として磨き続け、それを失うことなく以降の活動ではジャンルを横断した多彩なコラボレーションを行っていますし、そこには無理、であったり技量不足、という点は感じることなく、むしろ1人のアーティストとして臆することなく対峙(たいじ)しているように思います。
菅野よう子の作曲というのは曲調は幅広く、加えて非常に良く練られておりましてリズムや展開が複雑な曲が多いのですが、それについていった賜物(たまもの)なのでしょう。
それが結実したジャンルを横断する雑食性と同時に両立する透明感というのは他にはいないタイプの方なのです。
また舞台での発声経験も豊富なためライブでも非常に伸びの良い歌声を聞かせてくれます。
そして、彼女のアーティストとしての評価は2015年のトリビュートアルバム「REQUEST」によく現れています。
今までにコラボした方は抜きにして、そこには10年来のファンだというSUGIZO、KIRINJI、渡辺麻友、Negicco、新居昭乃、TRUSTRICK……などジャンルも活動歴も異なる面々が坂本真綾というアーティストに敬意を払いつつ調理してる姿には、声優だからとかそういったものは一切感じず、純粋にアーティストとしての評価を感じました。
さらには、フジファブリックの前ボーカル、故・志村正彦や中川翔子、BUMP OF CHICKENの藤原基央、声優の浅野真澄や山寺宏一、堀江由衣など非常に多くの方々から好きであると公言されるその魅力は紛れもない本物だと僕は思っています。
個人的にこれを書くキッカケになったのが、LUNA SEAのSUGIZOとの対談での話で、ビョーク、エスペランサ、ケイト・ブッシュと同列に語られ、好きな曲や惜しみない賛辞を受ける坂本真綾を鑑みるに僕よりも同業者のほうが魅力を理解しているのだと思われます。
僕も10年来の虜(とりこ)になり続けているアーティストに敬意を払いつつ自分なりの視点で語ってみる、という試みが2年越しに叶いました。
坂本真綾というアーティストの魅力を僕なりに書いていたら長くなってしまったので最後におすすめの楽曲情報を載せて今回はここで筆を置かせていただきます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
5. 楽曲情報
坂本真綾の活動を振り返り、個人的に薦めたい曲を年代を無視してピックアップしてみました。
作曲面で特筆したい方がいたらそちらも書きます。
奇跡の海(作詞:岩里祐穂、作曲、編曲:菅野よう子)
テレビアニメ「ロードス島戦記」のOPで、岩里祐穂と菅野よう子の黄金タッグが製作し、1998年に発売されたのがこの作品です。
どこか宗教音楽のような幻想的な雰囲気のまだあどけなさを残しつつ、透明感のある坂本真綾の歌声がマッチし、まるで海洋民族の祝祭を思わせるな曲に仕上がっています。
今作はヒットチャートに3カ月もランクインし続け、「トライアングラー」が出るまでは自身のオリコンシングルチャート最高位と最高売上枚数の両方を保持し続けました。
ヘミソフィア(作詞:岩里祐穂、作曲、編曲:菅野よう子)
テレビアニメ「ラーゼフォン」のOPに起用された今作も、岩里と菅野のタッグで製作、2002年に発売されました。
アニメが非常に哲学的かつ幻想的な内容なのですがその世界観を楽曲でも表しています。
曲調はビョークのようなエレクトロニカであり、常に細かくなり続けるリズムトラックと複雑に絡み合う電子音の旋律やボイシングも非常に複雑な曲です。
カラオケで歌うととんでもなく難しい曲なのですが、難なく歌い上げる坂本真綾の歌手としての技量に注目するキッカケの曲になりました。
雨が降る(作詞:坂本真綾、作曲:かの香織、編曲:斎藤ネコ)
テレビアニメ「鉄のラインバレル」のEDに起用された今作は、作曲に、かの香織を迎えて2008年に発売されました。
ストリングスとギターロックの絡み合う美しいバラードソングで、複雑な展開ではないですが雨と愛情を絡めてしっとりを歌い上げるこの曲は個人的に最も好きな坂本真綾のバラードです。
ちなみにこの「雨が降る」はカップリングの「プラリネ」も非常にいい曲なのでそちらもおすすめです。
かの香織、というとショコラータ(80年代に存在した声楽とニューウェーブ、ファンクやポップスを融合させたバンド)のような奇才としてのイメージが非常に強かったのですが、こういったストレートに美しい曲も書けるということに驚きました。
Buddy(作詞:坂本真綾、作曲:School Food Punishment・江口亮、編曲:江口亮、ストリングス編曲:江口亮・村山達哉)
テレビアニメ「ラストエグザイル-銀翼のファム-」のOPに起用され、2011年に発売されました。
今作の特徴は何と言ってもSchool Food Punishment(2012年解散)とエモーショナル・ハードコア・ギターロックバンド、Stereo Fabrication of Youthの江口亮が携わったメロディの部分です。
ストリングスと絡み合うデジタル・ロックが小節ごとに転調を繰り返していくこの作品はポップでありながらも非常にトリッキーでかつ疾走感にあふれた作品となっています。
何度も聞くごとに発見がある曲なので中毒性の高い曲だと思っています。
School Food Punishment、惜しくも解散してしまいましたが、ポストロックとエレクトロニカやオルタナティブロックなどさまざまな要素を混在させたトリッキーなロックは非常に好みでしたし、坂本真綾と菅野よう子の相性を鑑みるにこういったコラボで関わることは個人的には正解だったなと聞いていて感じる曲です。
Stereo Fabrication Youthは1999年に結成されたバンドです。
こちらルミナスオレンジ(日本のオルタナティブロックバンド、海外での評価が高い)のような疾走感を持ちつつもより聞きやすい方向性のギターロックを打ち出していて、結構個人的に気に入ってるバンドの1つです。
現在はボーカルでギターの江口亮のソロプロジェクト化してる模様です。
Be mine!(作詞:坂本真綾、作曲:the band apart、編曲 the band apart、江口亮、ストリングスアレンジ:江口亮、石塚徹)
テレビアニメ「世界征服〜謀略のズヴィズダー〜」のOPに起用され、2014年にリリースされました。
今作の特徴は複雑なコードとポップかつ疾走感とテクニカルなバンドサウンドの融合です。
どこを聞いても非常にエッジの立った作風でありながら、坂本真綾との相性は抜群でした。
それもそのはず、作曲を担当したthe band apartの中でもベースの原昌和が坂本真綾の大ファンでありロック・イン・ジャパン・フェスティバルで坂本真綾が出演した際、生で見れなかったことを悔しく思うほどの方だったのです。
そんなわけで坂本真綾というアーティストを理解していないはずもなく……。
その、the band apartは4人組のロックバンドでメンバー全員が高い演奏技術をもち、ヘビーメタル、プログレッシブ・ロック、ファンク、フュージョンなどを巧みに融合させつつ、一聴するとポップというまさしく変態という言葉が似合うロックバンドです。
このコラボで知ったのですが、初めて聞いたときは衝撃を受けました。
彼らの作品も非常に良曲そろいなのでそちらもぜひ聞いてみてください。
幸せについて私が知っている5つの方法(作詞:岩里祐穂、作曲、編曲:ラスマス・フェイバー)
テレビアニメ「幸腹グラフィティ」のOPに起用され、2015年にリリースされました。
まるでDaft Punkなどを思わせるようなハウス・ミュージックのキックに非常にきらびやかなシンセサウンドが特徴的な作品です。
日本の音楽でハウス・ミュージック的なものを聞く、それが声優の作品というのはなかなか意外に思いました。
電子音楽というと非常に無機質なとか冷たい印象を持つ方もいますが、決してそんなことはなく非常にポップな作品なので初心者にもおすすめの1曲です。
これに限らず坂本真綾は非常に良質なポップソングアーティストの1人だと思っているのでぜひこの機会にいろいろと触れてみてくださいね!