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ビリーシーン仕様ベースの「スキャロップ」は、なんのためにあるのか?

ビリーシーン仕様ベースの「スキャロップ」は、なんのためにあるのか?
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ビリーシーン仕様ベースの「スキャロップ」は、なんのためにあるのか?

ビリーシーンのシグネチャーモデルである「YAMAHA Attitude Limited」ベース。

現在、第3世代までシリーズ化されていますが、共通の特徴のひとつとして、「指板のスキャロップ加工」が挙げられます。

スキャロップというのは、ご存じの通り、指板のフレット間を滑らかに凹ませるように削る加工のこと

エレキギターに施した元祖は、ディープ・パープルのリッチー・ブラックモアだそうです。

その後イングヴェイ・マルムスティーンが愛用したことで、一気に知られるようになりました。

軽いタッチで音が出せるので速弾きしやすい、チョーキングやビブラートで微妙なニュアンスが出しやすいなどのメリットがある反面、指が指板に触れない状態で常に弾かなければならないため、弾きこなすには高度なコントロール技術が必要だと言われています。

ビリーもイングヴェイのマネをして、さらなる速弾きのしやすさを求めたのでしょうか?

実はそこには、ビリーならではの目的とアイディアがありました。

どこに入っているの?

一般的にギターでスキャロップと言えば、指板のすべてのフレットが凹んでいます。

ネックを横から見ると、洗濯板(死語?

)のように指板が波打って見えるのが特徴です。

ビリーモデルではどうかというと、指板のほんの一部だけしか入っていないんです。

場所は17フレットから21フレットの間。

さらに1弦、2弦の部分だけです。

また、フレットに挟まれた部分全体が彫られているわけではありません。

ビリーモデルには、特徴的な棒状のフレットマークが入っているのですが、きっちりその形に合わせて、深めに彫られています。

ちなみに僕は、このネック幅の半分だけ入れるビリー方式を「ハーフ・スキャロップ」と呼んでいたのですが、今回執筆するにあたってネットで調べてみてビックリ!

BABYMETALの神バンドなどで活躍されているギタリストの大村孝佳さんが施しておられる「イングヴェイ・モデルの半分の深さのスキャロップ」ということで、すでに浸透しているのですね。

なるほど、たしかにそれも「ハーフだ!」と目から鱗でした。

ベースでの「チョーキング」をやりやすくするため

ズバリ、ベースでの「チョーキング」をやりやすくするために入れています。

ギターでは基本テクのチョーキングですが、弦が太くテンションがキツいベースでは、かなり難しいですよね……。

しかしビリーはチョーキングをいとも簡単に繰り出します。

1音チョーキングは当たり前、なんと1音半チョーキングまでやってのけるんです!

そんなビリー流チョーキングのコツは、一言でいうと「弦の真下に指を入れて押し上げる」こと。

指の力をすべて弦を持ち上げる方向にかけることで、固いベース弦でもチョーキングできるという仕組みなんですね。

ここで役立つのが、スキャロップです。

彫られたところに指をピッタリとあてがって、溝に沿ってギュッと押し上げるだけで、自然に弦の真下から力が掛かることになりますので、より簡単に効率よくチョーキングできるんですね。

彫られた溝の幅がフレットマーク(つまり、ほぼ指と同じ)サイズなのもそのためです。

1音半チョーキングの例をひとつご紹介しますね。

中盤、ジョン・ロードのキーボード・ソロをベースで弾き切るという驚愕プレイがあるのですが、そのラストに1弦21フレットのE音をチョーキングして、G音まで上げています。

ノーマル・チューニング、21フレット仕様の4弦ベースで、この音(ビリーいわく、Hi-G音)を曲中で使おうとするのはビリーくらいでしょう(笑)。

スキャロップがなければ、到底不可能な「離れ業」だと思います。

どうして高音弦側だけなの?

ビリーは4弦と3弦も頻繁にチョーキングしますが、1弦とはやり方が異なります。

弦を押し上げるのではなく、下に「引き下げる」んです。

(まあ、4弦はそうするしかありませんが 笑)

この「引き下げチョーキング」もビリーが好んで使うお薦めテクの一つなのですが、そもそも力がまったくいらないんです!

なので、わざわざスキャロップで支援する必要もないのですね。

ビリーは4弦と3弦は引き下げる、2弦はどちらもあり、1弦は押し上げると使い分けています。

1985年ごろには、すでに取り入れていました

当時TALASというバンドで活動していたビリーは、イングヴェイ率いる「Yngwie Malmsteen’s Rising Force」のオープニング・アクト(前座)として一緒にツアーを回っていました。

そのときにスキャロップ加工が施されたイングヴェイのギターを見てインスピレーションを受け、当時の愛器「The Wife」ベースの指板を自分で彫ってみたようです。

参考サイト:Billy Sheehan – bass player from Mr. Big, Niacin, Talas and DLR

イングヴェイのマネをしたというのは、あながち間違っていません(笑)。

ただその時から「ハイフレット+高音弦」だけに入れていますので、イングヴェイとは違うメリットを見出して、うまく「応用」した結果と言えるでしょう。

よく考えると写真などの媒体からの情報ではなく、「イングヴェイ本人のギターを間近で見て」というのもすごい話ですよね……。

余談ですがそのツアー中、ちょうどイングヴェイの誕生日にショウがありました。

お祝いにと、ビリーとマルセル・ヤコブ(Rising Forceのベーシスト)が、イングヴェイの顔面にパイを投げつけたそうです。

若きイングヴェイって気難しそうですが、そういうサプライズは大丈夫だったんでしょうか……。

このツアー終了後、ビリーはTALASを脱退、単身ロサンゼルスに飛び、伝説の「David Lee Roth」バンドに加入、一気にブレイクします。

この頃からショッキングピングがまぶしい「YAMAHA BB3000カスタム」ベースが使われ始めますが、同様に手彫りでスキャロップが施されています。

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