音程を合わせてるだけじゃない。プロの三味線の調弦(チューニング)とは?
弦楽器には弦を基準の音に合わせる調弦(チューニング)が必要です。
三味線にも調弦(チューニング)が演奏する上で必要なのですが、今回は調弦に関する重要性を述べたいと思います。
調弦(チューニング)の大切さ

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私は最近、尺八・笛奏者としてもあちこちの民謡団体に参加することが多々あります。
しかし、自分が所属する団体を含めて、尺八や笛を吹いていてチューニングがびったり合って気持ちよく吹けたことなんてめったにありません。
なぜでしょうか、三味線の調弦(チューニング)がどこの団体へ行ってもいい加減だからです。
私自身三味線を弾いて25年を越えましたが、実はそれ以前には吹奏楽団でホルン奏者として約20年を過ごしてきたので、人一倍チューニングということには敏感なのです。
考えてみれば、40年以上も毎日毎日チューニングという仕業点検のようなことをやってきたわけです。
三味線の場合、まずはきちんとした基準の音に3本の糸の音を合わせるというのが大原則ですが、悲しいことに、それすらできない三味線奏者がほとんどなのが現実です。
それに加えて、そもそも三味線の糸というのは、ギターやバイオリンなどの弦楽器と違って絹糸で作られているために、伸び縮みしやすいというのが宿命のようになっています。
それがゆえ、いい加減な調弦では弾いている最中に伸びたり縮んだりしてチューニングが狂ってしまうのが現実なのです。
だからと言って、三味線の糸は伸びるんだから仕方がないなどと言っていては、三味線奏者失格なのです。
「調弦すらできないやつに三味線弾く資格なんかない」というのは津軽三味線の神様と言われた高橋竹山師の名言です。
三味線の調弦の現状は?
前述しましたが、どこの団体へお邪魔しても、調弦(チューニング)がしっかりとできているところは皆無に近いです。
基準の音が調子笛であっても、尺八の「ロ」の音であっても、チューナーの電子音であっても、しっかりとその音に合わせなければなりません。
だいたいこのような団体の場合、調弦はだれか比較的音感の良い人に任せていて、自分で何とかしようとしない人がほとんどです。
3本の糸のバランスは、サワリの付き方などを頼りにすれば意外に簡単に習得できるのですが、何と言っても一の糸を基本の音程に合わせることがまず基本です。
調弦に関しての音感は毎日練習すれば必ずある程度のレベルまで向上できます。
ただ、他人に頼ったり、チューナーばかりに頼っていてはいつまでたっても調弦の技量は向上しません。
基準の音に合わせるだけじゃない

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基準の音にピッタリ三味線の糸を合わせることができても、これだけでは調弦できたとは言えません。
たとえば民謡であれば3〜4分の曲の演奏途中に音が狂ってくるようであれば、これは調弦失敗です。
「糸が伸びるから仕方ないだろう」という反論がきそうですが、プロの演奏やレコーディングではこのようなことは絶対に許されません。
3〜4分の曲の最初と最後で音程が変わらないようにしてこそ、それを調弦と言うのです。
また、曲の途中で、格好良くサッサッと糸巻きを回してチューニングを微調整する光景をたまに見ますが、あれは決して格好良いのではなくて、しっかり調弦ができていなかった証拠の格好悪い姿なのです。
三味線一丁弾きで尺八が入らない場合は、曲の途中で多少音程が下がっても、あまり気にならないのですが、三味線が複数の場合は致命的です。
尺八や笛が入った場合はもっとゆゆしい問題です。
尺八や笛はほぼ音が安定しているのですが、寒い時期には吹いているうちに少しずつピッチが上がっていくことがあります。
これを防ぐためにステージに上がるときはなるべく楽器を袂(たもと)にいれたりして楽器自体を暖めてピッチの変化が最小になるように涙ぐましい努力をします。
しかし肝心の三味線の調弦がいい加減だと、曲の途中でだんだん音程がずれていってしまうことが良くあります。
これを「三味線と尺八の泣き別れ」といいます。
永年尺八や笛を吹いている人はそのあたりを心得ていて、何食わぬ顔で少しずつメリ吹きをしてピッチを下げて、三味線に合わせるのです。
尺八・笛奏者の涙ぐましい努力を少しは考えて、三味線の調弦はしっかりとやってもらいたいものです。
どうして音がずれるのか
基準の音に三味線の糸を合わせるのは、毎日の努力の積み重ねで耳を鍛えるしか方法はありません。
では、弾いている途中で音がずれるのはなぜか、いくつかの原因があります。
ゆるめてあった糸を巻いて音を上げて調弦しただけでは、100%音程は下がります。
また逆に高い調子から低い調子に下げた場合は、逆にもとの調子に戻ろうとする現象が出るので、音程は上がります。
二上りから本調子に調子を変えた時に二の糸の音程が上がることは皆さん体験されているはずです。
逆に本調子から二上りにしたはずなのに、二の糸の音程がだんだん下がることも良くある現象です。
また、新しい糸に張り替えた後に音が下がるのも当然の現象だと思ってはいませんか。
たしかにいい加減な糸のしごき方では音程は下がってしまいます。
それを防ぐために本番ステージ前日に新しい糸に替えるとか、一度使った糸を張るとかいう話は良く聞きますが、私はステージ直前でも平気で替えたりします。
使い古しの糸で、ステージで切れることを考えると新しい糸の方が良いですからね。
結婚式なんかでは糸が切れると洒落(しゃれ)にもなりませんので、二の糸、三の糸は当日に替えることにしています。
しっかりと糸をしごいてやれば、全く問題ありません。
ステージなどスポットライトを浴びたりすると、熱で糸が膨張して伸びるために音が下がることもよくあります。
これは曲中で微調整するより方法はありません。
糸だけなら良いのですが、糸巻きがスポットライトの熱でキュルキュルと戻ることもたまにあります。
特に高価な象牙の糸巻きを付けておられる方は、象牙と糸倉の金属の膨張率が違いすぎるために良く起こる現象なのです。
最後に
調弦の重要性が少しでもお分かり頂けたのではないでしょうか。
次回は、調弦の「具体的なやり方」を説明していきたいと思います。