独特の美しい響き。ビブラフォンの魅力
ジャズの楽器として一般的には認知されているビブラフォンですが、実は、単にジャズというジャンルの枠だけに収まってしまう楽器ではなく、その可能性は無限大ともいえるほどの奥深さを秘めています。
今回は、ビブラフォンという楽器について紹介したいと思います。
ビブラフォンってどんな楽器?
「もし光を音で表わしたら、ビブラフォンのような音色になる」
ビブラフォンはそんな表現が似合いそうな、独特の美しい響きを持つ楽器なのです。
ビブラフォンの音が空間に響くと、そこに光や影、心象風景などが現出するかような、不思議な感覚が起こります。
言葉で説明するよりもまず、音を聴いていただきましょう。
Masayoshi Fujita|Story Of Waterfall I & II
ベルリン在住の日本人ビブラフォンプレーヤーであるMasayoshi Fujitaさんのこの曲には、ビブラフォンの魅力が存分に盛り込まれています。
ビブラフォンにおける究極の形ともいえるすばらしい演奏です。
ソロでこれだけの表現ができる楽器が、ビブラフォンなのです。
ビブラフォンの構造
ビブラフォンは、英語で「Vibraphone」と表記されますが、その名前は楽器の構造に由来しています。
ピアノの鍵盤と同じ配列で、3オクターブ(大型だと3オクターブ半)の鉄の音板が並び、その下に電気式のファンが回転していて、音にビブラートがかかるようになっています。
ファンの速度は自由に変えられるので、曲調に合わせて調整します(下の写真は音板を外したところ)。
ファンは金属製の共鳴パイプの上部についており、パイプは音板の響きを増幅させる働きをになっています。
足でダンパーペダルを踏むことで、ピアノと同じように音を延ばせるので、かなりピアノに近い、自由な表現が可能です。
音板、共鳴パイプ、側板など、各パーツは分解して運搬できます。
次にご覧いただく動画は、ファンを回転させない、ノンビブラートのビブラフォンによる演奏です。
Vienna|David Friedman
ビブラートをかけると、ファンタジックで神秘的。
ノンビブラートだと、クリスタルのように透明でクリアー。
そんな変幻自在な楽器がビブラフォンなのです。
ビブラフォンの歴史
ビブラフォンは比較的新しい楽器です。
もともと、ビブラフォンはアメリカでジャズの楽器として誕生しました。
ジャズ・ビブラフォンは、多くの方が一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
ジャズ・ビブラフォンの元祖、ライオネル・ハンプトンの演奏を聴いてください。
Lionel Hampton|Flying Home(1957)
さらにもうひとつ、クラシックの曲(フィガロの結婚)をジャズ風にアレンジした楽しい演奏です。
タイトルは「ファンキー・モーツァルト」!
Funky Mozart.| Vibraphone. St Petersburg Russia http://www.chizhik.ru
やがてジャズだけでなく、クラシックの分野でマリンバ奏者がビブラフォンの演奏も行うようになっていきます。
マリンバについては、こちらの記事もご参照ください。
次の動画は、クラシックのピアノ曲をビブラフォンで演奏してしまうという趣向です。
まるでオルゴールのようなかわいらしい音色です。
Classical music on Vibraphone. |A.Chizhik Вибрафон 1996.
ビブラフォンの奏法
ビブラフォンは、マレットという撥(ばち)で音板をたたくことで音を出します。
マレット先端の素材が柔らかいと、出てくる音もふんわり優しくなり、固い素材だと鉄ならではの鋭い音がします。
どのマレットを使うかは、演奏者のセンスと好みにもよりますが、曲に合わせて選ばれることもあります。
マレットを片手に1本ずつ持つ、合計2本の奏法と、片手に2本ずつ持つ、合計4本(時には片手に3本持つこともある)での演奏が可能です。
ペダルを踏み替えることで響きをコントロールするのに加え、音板そのものをマレットで押さえることで、音をミュートする(消音する)のが、ビブラフォン特有の奏法です。
現代では最高のジャズ・ビブラフォン奏者の1人であるゲイリー・バートンが、マレットで音をミュートする奏法を確立・普及させました。
ゲイリー・バートンとパット・メセニー(ギター)のデュオを聴いていただきましょう。
4本のマレットを自在に操る姿はまるで魔術師のようです。
Pat Metheny and Gary Burton|Falling Grace
このように、ソロだけでなく、ギターなど、ほかの楽器と合わせても違和感なくなじみ、溶け込んでしまう万能選手的な響きを持っているのが、ビブラフォンの大きな魅力のひとつです。
それにしても、この2人の演奏はさすがにスゴイですね。
最後に、ビブラフォンの変わった使い方をご紹介しましょう。
弓で音板をこすることで違う楽器のようなハーモニーが生まれます。
Square Peg Round Hole|No. 8 from “Postludes For Bowed Vibraphone” by Elliot Cole
未知の可能性を秘めた楽器、ビブラフォン
歴史の項で、ビブラフォンは比較的新しい楽器だと書きましたが、今もたくさんのプレーヤーにより新しい表現や奏法が創り出されています。
そのため、ビブラフォンの可能性はこれからさらに広がってゆくでしょう。
ジャンルを超えて大活躍できる楽器であることも、ビブラフォンの最大の長所です。
ビブラフォンの音を鳴らしてみよう!
ビブラフォンを弾いてみたい、と思われたら、まず実際に楽器と触れ合ってみましょう。
ネットで検索すると、ビブラフォン教室のサイトが出てきます。
ジャズ・ビブラフォンに特化したレッスンもありますし、クラシックベースの教室もあります。
音楽大学が近くにあるなら、そこの「打楽器科」の人たちにコンタクトを取ると、ビブラフォンのレッスンを受けつけている学生さんやOB、OGがいらっしゃるかもしれません。
まず実物の音を聴いて、鳴らしてみることで、ビブラフォンと恋に落ちてみませんか?
あなたが新しいビブラフォン奏法の開拓者になる可能性も十分あります。
ぜひ1度、本物のビブラフォンの音を聴いてみてください!