ブラックメタルってどんな音楽?
皆様はブラックメタルというジャンルをご存じでしょうか。
名前の通りヘビーメタルのサブジャンルなのですが、他のメタルのサブジャンルとは少し、勝手が違います。
そのため、曲を紹介する前にそもそもブラックメタルとは何なのかということにも触れつつおすすめの曲や名曲を紹介しようと思います。
- ブラックメタルの音楽的特徴
- ブラックメタルの思想
- おすすめのバンドと楽曲
1. 音楽的特徴

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ブラックメタルとはもともとスラッシュメタルから派生したジャンルの1つでその特徴とは以下の通りになります。
- ノイジーなギターによるトレモロ奏法(単音を高速で刻み続ける奏法のこと)
- うめき声や金切り声の多様(映画:エクソシストでありそうなやつ)
- ブラスト・ビート(交互または同時にバスドラムとスネアを高速で鳴らすドラミングのこと)
だいたいこの3つが用いられることが多いです(例外もあります)。
また反メジャー主義な要素が強いので、昔から音質を意図的に悪く収録するという慣例があります(最近はそうじゃないのもいっぱいいます)。
さらにヘビーメタルそのものの特徴とも重なるのですが、ブラックメタルもさまざまなジャンルと融合して生まれたサブジャンルが多いことも挙げられますが、ここでは割愛します。
ブラックメタルに関してはテクニカルな要素、メロディアスさとかけ離れた楽曲構成が組み合わさることで、聴くのも初心者お断りで、演奏するのも高度なテクニックを要するブラックメタルという音楽が成立しているのです。
まさにヘビーメタルというジャンルの極北(きょくほく)に位置しています。
2. 思想とジャンルの成立背景
ここまで音楽に絞った特徴を列挙してきましたが、ブラックメタルには音楽以外の特徴もかなり散見されます。
そもそも、デスメタルとブラックメタルは同じスラッシュメタルから派生した兄弟のような存在なのですが、この2つには明確な違いが存在します。
それは思想です。
音楽のジャンルに思想……といいますとパンクロックもそういった既存の体制への言ったような一種のアナーキズム、思想的な面は見られます。
しかし、パンクは純粋に思想的というだけの音楽ではありません。
なぜかというと、別にジャンル自体は純粋に思想的なものではないからです。
例えば、
- 当時のプログレッシブロックがもう難しすぎて普通の人じゃ演奏できない
- ロックンロールに還ろう、もっとみんなが弾けるようなロックが欲しい
など、ある種の技術主義への反発も有るわけです。
話が脱線してしまいましたが、本題に戻りましょう。
そのパンクに比してブラックメタルはより思想的な背景が強い音楽であるということを続けて書きます。
ブラックメタルというジャンルの大きな特徴である思想、それはサタニズム(悪魔崇拝)です。
成立当初の80年代初期は、一種のモチーフとしてサタニズムを用いていただけなのですが、90年代ノルウェーなどで生まれたブラックメタルバンドの多くはサタニズムをイデオロギーとして用いました。
そもそも、ノルウェーという国家は日本と同じような社会性や規範が重視されるお国柄でさらにキリスト教国家です。
その締め付けへの反発としてのブラックメタル、サタニズムはという一面は大きかったと思います。
そして現代においては音楽的な特徴としてのブラックメタルを継承しつつも、サタニズムなどの思想的な面は受け継いでいないバンドも増えている、という世代ごとにかなり差のあるジャンルです。
このようにブラックメタルバンドは世代によってかなり違うのですが、思想的にはサタニズムとまではいかずとも反キリスト、もしくは世界宗教(イスラム教や仏教、キリスト教などの国や人種を超えて思想が信仰されている宗教)への反発は共通しています。
これらの思想はデスメタルには存在しないもので、ここがデスメタルとブラックメタルが明確に区別される点であると言えます。
白塗りのメイク(コープスペイント)やロングヘアーもブラックメタルの特徴ですね。
そして、ブラックメタルというと外せない点があります。
インナーサークルです。
この言葉は90年代初期のノルウェー産ブラックメタルバンドとその関係者を指して使われた言葉なのですが、特徴はその行動です。
まるで「誰が一番邪悪なのか」ということを競わんばかりに教会放火などを犯してヨーロッパ中を震撼させ、現在のブラックメタルシーンにも深い爪痕を遺しています。
彼らの行動はブラックメタルの思想の1つであるサタニズムを実行に移した結果とも言えるのですが、悪魔崇拝者ではないような人間もこのような出来事に関わっていることから、一概に原因が特定できないのが現状です。
このようにブラックメタルというジャンルは他のジャンルに比べ、実際に行動に移すという点では他の追随(ついずい)を許さず、その点においては非常に強固な思想を内包していると言えます。
こういった点からもこのジャンルを語るときに思想という要素は欠かせないことがわかるのではないかと思います。
3. おすすめのバンドと楽曲
ブラックメタルはその音楽的な特徴からも思想からも初心者お断り感が満載なのですが、実際そんなことは考えず自分も聴いていますし、聴きやすい曲も(他のジャンルと比較されるとつらいけど……)なくはないです。
そして、ブラックメタルでしか聴けないような楽曲が多いのもこのジャンルの魅力ですよ!
ここでブラックメタルを聴くコツを書きます。
ボーカルやメロディをメインにした聴き方をしない
これは邦楽に慣れてるリスナーや主にアニメソングからメタルに飛び込んだメタラーにありがちなのですが(アニメソング、ゲームソングにはメロスピ的な要素の強い楽曲も多いため)、このあたりの音楽というのは起承転結がハッキリしていてメロディラインがきれいなものが傾向として多いです。
どうしても、メロディを追ってしまいがちです。
またメインストリームにいるような歌手の方々はきれいな声をしています。
そういった固定観念は一度捨てましょう。
ボーカルはあくまでも楽曲の雰囲気作りであり、演奏の一部と捉えるのが良いでしょう。
また「声が無理」ということもあります。
これはデスメタルにも共通してるのですが、「声+演奏」という聴き方を捨てましょう。
音楽なんて極論言えば全部慣れです。
多く触れればどうにかなりますよ、ということであれこれ紹介してみようかと思います。
ディム・ボガー(DIMMU BORGIR)
ノルウェーで1993年に結成されたバンドです。
生のオーケストラを大々的に導入した壮大なサウンドが特徴です。
さらにこの手のジャンルには珍しく大手レーベルと契約し商業的にも成功を収めています。
それが原因でコアなブラックメタルファンには嫌われる傾向にありますが、世界的な人気があり、ノルウェー国王の前で演奏を披露したことがあるほどの人気を誇っています。
おそらく、ブラックメタルの中では最も聴きやすい部類に入るのではないかと思います。
エンペラー(Emperor)
1991年にノルウェーで結成され、2001年には一度解散、2005年に再結成したバンドです。
初期はブラックメタル特有の冷たく重いサウンドとメロディアスなギターリフやキーボードを志向していましたが、2ndからはクラシックの影響を出し、さらにギターもスタッカートに刻むようになるなど、新たなスタイルを追求し始めました。
この変化は賛否両論ではあるものの世界的な名声を獲得するきっかけになっています。
おすすめ曲「An Elegy Of Icaros」
メイヘム(MAYHEM)
1983年にノルウェーで結成され、1984年に一度解散後、メンバーを換えて同年に再結成、1993年に再度解散し、1994年から活動再開、現在に至ります。
このバンドは初期のブラックメタルシーンで中核となる存在で、そのサウンドを確立した点ではブラックメタルシーンに欠かせないバンドです。
正直先程の2つに比べると聴きにくく、本格的なトレモロフリフが入ってきます。
このバンドが聴けるならブラックメタルはおおむね聴けるだろうと思います。
また、このバンドはボーカリストのデッドが自殺、そしてバンドの中心人物であったユーロニモスが、バーズムのカウントグリシュナックことにヴァルグヴィーケネスに殺害されるという極めてショッキングな出来事が起きたことでも知られています。
おすすめ曲「De Mysteriis Dom Sathanas」
バーズム(Burzum)
ボーカルからギター、ベース、ドラムなどすべてをこなすマルチプレイヤー、ヴァルグヴィーケネスことカウントグリシュナックよって始動した1988年から活動しているワンマンプロジェクトです。
バーズムの音楽的な変遷はブラックメタルからアンビエントへ、そしてまたブラックメタルと少し特殊です。
楽曲にも特徴があり、デス声とは違う喚き散らすボーカル、ノイズが乗りまくって音が割れたギター、反復フレーズ、北欧神話を元にした歌詞……などです。
その独自の世界観から今でも根強い固定ファンがいます。
また、絶望的でリアルな精神病の世界を描いたブラックメタルを「デプレッシブブラックメタル」と呼ぶこともあり、おそらくこのジャンルほど暗いロックは他にはないのではないでしょうか。
このような鬱々としたブラックメタルを確立したのがバーズムでもあります。
オススメ曲「Dunkelheit」
アルセスト(Alcest)
2000年にフランスでボーカルからギター、ベース、ドラムなどすべてをこなすマルチプレイヤー、ネージュによって結成されたブラックメタルプロジェクトです。
特徴は何と言っても楽曲です。
シューゲイザーやポストロックなどの要素をブラックメタルと組み合わせることで、ブラックゲイズとも言われる新たなスタイルを確立しました。
その楽曲はブラックメタルとは思えないほど繊細だったり奇麗だったりするのですが、そんな中にもトレモロリフや特殊な歌い方などブラックメタルの要素も多分に含まれています。
正直今まで紹介したものの中ではダントツで聴きやすいですが、あらゆる部分で純粋なブラックメタルとは違うため、ブラックメタルとして薦めるかどうかは人によって意見が分かれるところです。
おすすめ曲「Souvenirs D’Un Autre Monde」
最後に
このように、ブラックメタルというのは確かに特殊なジャンルですが、他のジャンルでは聴けないような独特の魅力に満ちた世界です。
1つのジャンルについてここまで考えたのははじめてで、非常に良い機会になりました。
ブラックメタルの魅力とその世界に少しでも触れる手助けが出来たら幸いです。