アイドルの神曲から作詞の作法を解く
楽曲の選定にはコンペという方法があります。
コンペはコンペティションの略、競争の意味。
たくさんの候補の中からめぼしい1曲を、または数曲を選びます。
コンペに落ちた楽曲の行方は……。
次のコンペに挑む体力のある楽曲は輝ける場所を探して再びコンペに向かいます。
敗れ去りどこにも使えない楽曲は楽曲からただのくずへと帰ります。
昔からコンペに関しては賛否両論あります。
故寺山修二は「本当に起こらなかったことも歴史の一部分だ」と話しています。
たくさんのコンペを通らなかった楽曲はその音色をどこで奏でているのでしょうか。
今回は必然、偶然問わず、世に出ることのできた2曲の神曲から作詞の作法を解いてゆきたいです。
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℃-ute「Danceでバコーン!」
作詞はつんく♂さんです。
歌わせたい曲、歌いたい曲
音楽をあまり聴かない普通の人でも知っている人気のあるプロデューサーと言えば、AKB48グループを指揮している秋元康さんと、ハロープロジェクトの楽曲に多く関わっているつんく♂さんです。
2人の違いは何かと問われれば、私なら「秋元さんはアイドルに歌わせたい楽曲を作る、対してつくん♂さんは自分が歌いたい楽曲を作る」でしょうか。
秋元さんが作るどこまでも元気で可憐な楽曲は、アイドルが歌ってこそ輝くものばかりです。
つんく♂さんが作る楽曲はシャ乱Qが歌ってもそのまま通用するような、どこかセクシャルポイントを含んだ楽曲ばかりで、まさに自分が歌いたい曲を書いていると思わせるのです。
お2人とも多種多様な歌詞を書きますので、当然ひとつの特定したラインを見つけて無理に比べることはできませんが、最大公約数的なところを拾い、その女の子像をあえて例えるなら、
- 秋元さん……純粋な白さ、男の子が直視する女子
- つんく♂さん……どこかセクシーな要素を含む、男の子がチラ見する女子
にもなるでしょうか。
その片鱗がお2人の歌詞に見え隠れします。
もうひとつ書き足すとするなら秋元さんの「Everyday、カチューシャ」はまずファンを盛り上げようとして書かれた感じがします。
「Danceでバコーン!」はまず演者である℃-uteを盛り上げようとして書かれた感じがします。
どうでしょうか。
現実、夜の匂い
大ヒットした楽曲でもシャ乱Qの歌はどこかしら夜の匂いがしました。
夜の匂いがするから大ヒットしたのかもしれません。
夜の匂いとはここでは少なくとも現実のことです。
ホストの笑顔のうさん臭さと言いましょうか、成り切れない水商売女性の心のせめぎ合いとでも言いましょうか、状態を表す言葉が見つからない現実、それがつんく♂楽曲の味なのかなと思います。
「もちろん玉の輿 そりゃ乗りたい 毎日が勝負パンツ」
パンツは意外とアイドルの楽曲に登場するキーワードです。
NMB48 「純情U-19」
「大人にはなれるでしょう いつの日か だからもう少しだけ 鉄のパンツ」
でんぱ組.inc「さくらあっぱれーしょん」
「カッコつけても パンツパンツパンツはみ出てる」
脱がないことを前提の鉄のパンツ、見せないこと前提のはみ出たパンツに比べると、見せること、脱ぐこと大前提の勝負パンツなのですから、いやらしさを競えばつくん♂さんの歌詞が一番になります。
これを現役トップアイドルに歌わせ、さらに強引に組み込んだ感は少しもないのだから、痛快極まりないのです。
一人称は女性である「私」ぽいのですが、その目線は男性寄りです。
かわいさにたくましさと猥雑をミックスさせたつんく♂さんの歌詞にはいつもハラハラドキドキさせられます。
「お腹が減って来たわ 帰りにうどんでも食べてくわ」
ときめきや切なさを歌いあげるアイドルの楽曲が多い中、つんく♂さんの歌詞には生々しい現実が度々登場します。
上記の歌詞に登場する「うどん」、普通アイドルなら「クレープ」を食べるでしょう。
アイドルは虚構、誰もリアルなんか求めていないのに歌詞に「うどん」が出てくる、受け手は頭をガツンとやられた思いです。
現実をリンクさせた歌詞と言えば、森高千里さんの初期楽曲は彼女の私小説(のような歌詞)にそのままメロディーを乗せたものでした。
「今度私どこか連れていってくださいよ」も「この街」も歌詞全編彼女の思いだけでした。
これらの歌詞が和製ユーロビートに刻まれて小気味良いテンポを奏でていました。
微量の毒のよう、現実を喚起させる言葉を混ぜるのは有効な作詞手段のひとつなのかもしれません。
二重サビ
1回目のサビが始まります。
「ダンスでバコーン なんか全部忘れたい!
ダンスでバコーン 涙が止まらないよ!」
ここでファンは100%のヒートアップです。
歌詞から観察すると曲名にもなっている「ダンスでバコーン!」と盛り上がる訳です。
ダンスでバコーンと盛り上がっているのに涙が止まらない、女性特有の割り切れない心の空白感が表現されています。
このサビの時点でマックスの盛り上がりが、2回目のサビ
「こんなにすごく切ないの どうしてかわかんない
今まで溜めたストレスと 今夜でおさらばさ!」
が、さらに盛り上げます。
二重サビとでも名付けたいです。
こんな楽曲は今までなかったと思います。
サビの次にもっと盛り上がるサビ的なメロディが続くなんて。
ライブ映像では演者はさることながらファンの様子も目にするのですが、個々で盛り上がるファンたちにアイドルファンの原風景を重ねて見ることができます。
その場所で笑顔になっているファンには疑似恋愛も偏愛もありません。
楽曲と一体になっている昭和アイドルの親衛隊の「変な爽やかさ(やり切った感)」がそこにはあります。
「自分で作詞作曲両方する人はいいなあ、自分でメロを作れるのだから」と作詞家の仲間内でよく聞く言葉です。
しかし、作詞作曲する人の作詞によく見られる特有の余裕っぷりは、よく聴けば面白くもなんともない言い回しがあったりもします。
うまくは言えませんが、音譜が言葉を迎えに行った歌詞につまらなさを感じます。
メロがある、音譜の長短がある、この言葉を充てたいのに文字数が合わない……などのもがきがあって輝く歌詞もあるはずです。
そんなもがきを楽しむことができれば今日からあなたも本物の作詞家だと思います。
ライタープロフィール
アイドル作詞家・俳人
瀧乃涙pin句
何のツテもないまま作詞を開始。
数年後、文化放送ラジオドラマ主題歌『全身全霊Open Now!』song byガールズジョッキーまでたどりつく。
SPATIO『泣きそう』『レジスタンスガール』、SPATIO kids『温泉サンバ』、ナナエ『シューティングスター』『恋の話しよ!』他、ご当地アイドル、地下アイドルに歌詞を提供中。
週末はもっぱらアイドルを追い掛けている。
Twitter:t_pink_t