【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。カバー曲編
カバー曲の割合が年々増加しているように思えます。
好意的に受け取るなら「いい曲が永遠に受け継がれている」、悪くいえば「作り手の怠慢」となるでしょうか。
カバーは単なるミメーシス(模倣)ではありません。
今回はカバーされてアイドルの曲とよみがえった2曲を取り挙げたく思います。
もくじ
お手本神曲:こぶしファクトリー|桜ナイトフィーバー
作詞はKANさんです。
下世話と潔癖の狭間
突き抜けるような頭サビがなんとも気持ちいいです。
このままずっと聴いていたいなと思わせます。
ダンサブルに編曲されているのもこの曲の原型に負けないノリの良さです。
「桜フィーバーフィーバー、春がきて、女子も男子も胸はしゃぎ」人間と宴の距離にはかないこの世のえにしを感じるフレーズです。
「春」とか「桜」とか書くと同じようなしんみりとした景色しか書き出せない作詞家が多い中、KANさんの才能の片鱗(へんりん)を垣間見たフレーズです。
軽い思いをうまく軽い言葉でまとめています。
おじさんたちがどんちゃんと騒ぐ日本風の花見を、ある一線でその独特の下世話を意識させない潔癖さは見事な書きっぷりです。
アイドルグループのイメージを損なわない、この曲を選んだ事務所のチョイスも確かなものです。
説教臭さもスパイスに
さて、作詞の視点で見てみましょう。
「こんな世の中じゃ~」なんて歌詞はよほどの大物でなければ受け入れられない風潮があります。
例えば「つまない生き方で~」などの歌詞はササンオールスターズや矢沢永吉さんとかのレベルなら誰もが共感し、うなづきもしてくれるのですが、売れないバンドが同じような事を歌うと負け犬の遠ぼえ扱いされてしまいます。
「日本の人々はどうにもこうにも忙しい~消費と浪費を行ったり来たり」重くなりがちな思いを軽くまとめています。
上の歌詞は少し説教臭いですが、作詞者を離れた活字の姿であると思えば一般論としてはこのくらいの説教臭さは許されると思います。
いい説教っぽいフレーズは決まるとかっこいいです。
限られた一個人の感慨や感想を一般論にまで引き上げるのは大変です。
それなりの筆圧があるのならその物語の開拓者であるという自負を持って書く事は許されるでしょう。
軽い表現と重い表現
軽い言葉と重い言葉も同義語な感覚で書いています。
思いと言葉のバランスを下のようにまとめてみました。
ファンの方々は異論有るかと思いますがどうかお許しを。
あなた自身でも作詞の目安として以下のような関連表を書いてみてはどうでしょうか。
これを意識するだけで言葉に統一感、フレーズの取捨に迷う事も少なくなります。
- ロック系アイドル:ヘビーな思い、ヘビーな言葉
- スマート系アイドル:ヘビーな思い、ライトな言葉
- 非王道系アイドル:ライトな思い、ヘビーな言葉
- かわいい系アイドル:ライトな思い、ライトな言葉
「気がつきゃ吹雪と呼ばれてる、それってどうなんでしょう」軽い表現の中に巧を思わせるフレーズ。
でもどこかアイドルらしくはない響きです。
KANさんもこの曲がまさか後々アイドルにカバーされると思って書いてはなかったでしょう。
突き抜けて明るくアイドル用に書いていればもっともっともっと輝いた言葉を選んでいたと思います。
お手本神曲:J☆Dee’Z|だいすき
作詞は岡村靖幸さんです。
口語とささやきの軽み
J☆Dee’Zがカバーをして趣の違うダンスナンバーとなりました。
原曲を飛び越えたファンキーさには驚いた方も多かったと思います。
そのJ☆Dee’Zのカバー曲をFun×Famシスターズが劇場公演でよく歌っています。
時代を超えこの歌の魅力がどんどん波及しています。
岡村さんは何を書いても「岡村節」が炸裂(さつれつ)すると言いましょうか、私が単なるファンなのでひいきめに聴いてしまうのでしょうか、どの曲にも「凡人には書けない」と思うフレーズが続出します。
「三週間ハネムーンのふりして旅に出よう」ささやかれているかのような歌詞。
この「ハネムーンのふりして」はなかなか書けないのではないでしょうか。
作詞者の実体験なのかなと勘繰(かんぐ)ってしまいます。
「君が大好きあの海辺よりも、大好き甘いチョコよりもこんなに大事なことはそうはないよOh」岡村さんが女性に話しかけているような自然なセリフ。
口語がうまく音符の中に溶けています。
真偽は分かりませんがこのフレーズはサラッと書いていそうです。
想念と実在とのハッキリした断絶のない中、まぶたをしばたくたびに輝きを増すフレーズ、才能と研鑽(けんさん)のたまものだと思います。
私小説めいた歌詞
「肩に手を伸ばした時、雨がいきなりザッザーザと本降り」実体験のような動きある鮮やかな描写です。
異彩を放ったアイドル森高千里さんの歌詞も私小説めいたフレーズが満載でした。
「この街」では「でもこの街が好きよ、生まれた街だから、空はまだ青く広いは田んぼも」自分の故郷熊本県を歌ったものだと思います。
特別ドラマチックな経験でなくても、自分を通過していった恋愛や学生時代の教室の風景など、歌詞と昇華できる題材は自分の中にたくさんあります。
コンビニでおにぎりを買ったからところから
- 昨日コンビニで、おにぎりを買ったよ
- 新発売、味噌トマト味、キミが知ったら笑うだろうな
を組み立て、譜割りにあれこれ頭を悩ませる。
実に楽しい作業です。
ですが、日記のように書き散らかしたものにならないよう、最低限の注意は必要です。
歌詞に対する姿勢の厳しさを心のどこかに置いておかないと私的なポエムで終ってしまいます。
言葉の取り合わせ
言葉と言葉の取り合わせ。
作詞家は常にいくつもの実験を繰り返し言葉の新しい可能性を広げています。
この曲にも
- 計算ちがいの雨
- 劣等感ぶっとんじゃうくらいに熱いくちづけ
など新しい取り合わせが書かれています。
「計算ちがいの雨」という一語には有無を言わせぬ目新しさと力強さがあります。
取り合わせには処方箋となるようなコツはないですが、私が気に掛けているのは「時間と空間の距離」を考えることです。
誤読されることを怖れないのも大切でしょう。
この曲の歌詞はは「女の子のために今日は歌うよ」で締め切られています。
このフレーズは岡村さんが生涯を懸けて歌い続ける意味でもありそうです。
「君のことがだいすき」の一点に焦点を定め書かれた歌詞。
いつかこのようなすてきな歌詞が書ければと思います。
ライタープロフィール
アイドル作詞家・俳人
瀧乃涙pin句
何のツテもないまま作詞を開始。
数年後、文化放送ラジオドラマ主題歌『全身全霊Open Now!』song byガールズジョッキーまでたどりつく。
SPATIO『泣きそう』『レジスタンスガール』、SPATIO kids『温泉サンバ』、ナナエ『シューティングスター』『恋の話しよ!』他、ご当地アイドル、地下アイドルに歌詞を提供中。
週末はもっぱらアイドルを追い掛けている。
Twitter:t_pink_t