洋楽のトリビュート・アルバムの名盤。オススメの1枚
皆さんは、トリビュート・アルバムと聞いてどのような作品を想像しますでしょうか。
一般的には偉大なアーティストやバンド、場合によっては作詞家や作曲家にフォーカスを当てて、それぞれの名曲を複数のアーティストがカバーを披露するといったものがトリビュート・アルバムと言われていますよね。
今回の記事では、複数のアーティストやバンドが参加した洋楽のトリビュート・アルバムの名盤に焦点を当てて、時代をこえたオススメの1枚を選んでみました。
トリビュート・アルバムがこういった形で紹介されることはあまりないですし、この機会にぜひお楽しみください!
洋楽のトリビュート・アルバムの名盤。オススメの1枚(1〜10)
Across the UniverseThe Beatles

ビートルズが及ぼした影響力の大きさは、あらゆるジャンルにおいて数え切れないほどのトリビュート・アルバムが定期的に発表されていることからもわかりますよね。
その中でも代表的な作品を1枚挙げるというのは難しい選択ですが、今回は2002年にリリースされたサウンドトラック盤という変則的な形のビートルズ曲のカバー・アルバム『I am Sam』を紹介しましょう。
2001年に公開され、高い評価を受けたアメリカ映画『アイ・アム・サム』を彩るビートルズの楽曲たちを、大人の事情で原曲を使用するのが困難と判断、急きょ他のアーティストやバンドがカバーするという構成となった作品で、ある意味偶然の産物といえるアルバムなのですね。
映画のそれぞれのシーン自体が原曲のビートルズ楽曲と合わせた想定で作られていたため、演奏時間やテンポなどを変えない形でカバーしているため、トリッキーなアレンジを期待してはいけませんが、そういったルールの中でカバーを担当したアーティストたちのビートルズ愛と個性が発揮されている素晴らしいトリビュート作品となったのです。
2000年代初頭という点も踏まえると、1990年代に活躍したオルタナティブロック系のアーティストも多く参加していることも特徴的で、パール・ジャムのフロントマンであるエディ・ヴェダーさんによる『悲しみはぶっとばせ』はチャートで好成績を収めていますね。
Rocket ManElton John & Bernie Taupin

世界的なシンガーソングライター、エルトン・ジョンさんの楽曲の多くは作詞家のバーニー・トーピンさんとのコンビによるもの、というのは有名な話ですが、1991年にリリースされたこちらの『Two Rooms: Celebrating the Songs of Elton John & Bernie Taupin』は、エルトン・ジョンさんとバーニー・トーピンさんによる楽曲を取り上げたトリビュート・アルバムとなっています。
リリース時において、すでに長いキャリアを持ったビッグ・アーティストが多く参加しており、それぞれの色を出しながらエルトン・ジョンさんへの敬意を感じさせるアレンジとなっているのが印象深いですね。
個人的には、1990年にリリースしたセカンド・アルバム『蒼い囁き』が大ヒットを記録しながらも、過激な発言などでも話題を集めていたシネイド・オコナーさんによる抑制の効いた歌唱が美しい『Sacrifice』や、レゲエ調のカバーでヒットを記録、高い評価を受けた鬼才ケイト・ブッシュさんの『Rocket Man』などが出色の出来栄え。
ティナ・ターナーさんの豪快なヴォーカルが楽しめる、邦題『あばずれさんのお帰り』というインパクト大なタイトルでも知られている『The Bitch Is Back』はグラミー賞にもノミネートされていますね。
女性陣の個性が際立った1枚、と言えるかもしれません!
Nothing Else MattersMetallica

2021年でリリース30周年を迎えた、メタリカを世界的なビッグ・バンドへと押し上げた記念碑的アルバム『メタリカ』。
通称『ブラック・アルバム』とも呼ばれ、グランジのブームが巻き起こった1991年にリリース、全世界で3,500万枚という驚異的な売上を記録した名盤中の名盤であることは今さら語るまでもありませんが、今回紹介している『The Metallica Blacklist』は、その『ブラック・アルバム』の収録曲を何と53組ものアーティストやバンドがカバーした作品なのです。
参加したミュージシャンたちの多さはもとより、ロックやパンク、シンガーソングライターからポップスにラテン、カントリーにヒップホップにいたるまで、あまりにも多彩すぎるラインアップを見れば、メタリカがメタル以外のジャンルへ及ぼした影響力の大きさ、その偉大な功績をあらためて実感することでしょう。
たとえば2021年6月にMVが公開された名曲『Nothing Else Matters』だけ取り上げてみても、近年ルックスとともにロック愛を全面に押し出しているマイリー・サイラスさんがボーカルを務め、エルトン・ジョンさんと世界的なチェリストのヨーヨー・マさん、リズム隊にメタリカのロバート・トゥルージロさん、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミスさんが参加というジャンルの区分けなどがまったく意味を成さない挑戦的な内容となっているのですね。
メタリカの楽曲を通じて、今まで聴いてこなかった分野のアーティストを知るきっかけとなるかもしれません!
SuperstarCarpenters

カーペンターズといえば、世界的な成功を収めた兄妹デュオにして、日本では英語の教材として教科書に載るほどに有名な楽曲を多く生み出した存在です。
全盛期においてはカーペンターズの音楽的な本質を見抜けなかった評論家からの酷評もありましたが、とくに1990年代以降に後続のミュージシャンたちから再評価が進み、結果的に彼らの楽曲は単なるヒット曲という評価をこえたスタンダードナンバーとして永遠に音楽史にその名を刻んでいますよね。
1994年にリリースされた『If I Were a Carpenter』は、そんなカーペンターズが90年代のオルタナティブロック世代にも影響を与えていたことがよくわかる異色のトリビュート・アルバムです。
『イフ・アイ・ワー・ア・カーペンター〜カーペンターズに捧ぐ』という邦題と、コミカルなイラストを用いたアルバム・ジャケットを目にしたことがあるという方もいらっしゃるのでは?
MVも作成された、オルタナティブロックの開祖的な存在であるソニック・ユースの『Superstar』など、一筋縄ではいかないアーティストたちによる独自の解釈によるカーペンターズの楽曲群はどれも実に興味深いですね。
アメリカのミュージシャンたちが中心ではありますが、日本からは少年ナイフが『Top of the World』を彼女たちらしい、ラフなギターとポップなスタイルでカバーしていますよ。
Under PressureQueen

近年は不世出のフロントマン、フレディ・マーキュリーさんに焦点を当てた映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットで、若い音楽ファンからあらためて注目を集めた、イギリスが生んだ世界的なロック・バンドのクイーン。
当然ながら、彼らからの影響を公言するミュージシャンは世界中に多く存在していますし、彼らの生み出した楽曲も好んでカバーされている印象ですが、トリビュート・アルバムは意外と少ないようですね。
今回取り上げている、クイーンの名曲をタイトルとした『Killer Queen: A Tribute to Queen』は2005年にリリースされた作品で、2000年代以降にデビューを果たした当時の若手アーティストやバンドが多く参加しているのが特徴です。
当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったポップパンク・バンドのSUM 41が、いかにもなパンキッシュ・スタイルではなく、かなり原曲に忠実かつストレートに『Killer Queen』をカバーしていたり、デビュー間もないジェイソン・ムラーズさんも『懐かしのラヴァーボーイ』を原曲のイメージを崩さない形で披露しているのが興味深い。
個人的には、この時点でまだ10代だったジョス・ストーンさんによる『Under Pressure』が実に美しく、パワフルな歌唱力に圧倒させられます!
A Case Of YouJoni Mitchell

女性シンガーソングライターの系譜において、先駆け的な存在の1人と言えばやはりカナダ出身のジョニ・ミッチェルさんでしょう。
1968年にデビュー・アルバムをリリースして以来、幅広いジャンルを巧みに取り入れた音楽性と優れた作詞家としての才能から生まれる珠玉の名曲たちは、商業的な成功はもちろん多くのミュージシャンへ影響を与えています。
そんなジョニさんからの影響を公言する豪華なアーティストたちが集結したトリビュート・アルバム『A Tribute To Joni Mitchell』は、原曲に忠実なものから大胆にアレンジしたものまで、どれもジョニさんへの敬意が込められた見事なトリビュート作品となっているのですね。
ジャンルにとらわれない素晴らしい作品を多くリリースしていることでも知られている、名門ノンサッチ・レコードが主導しているということで、トリビュート・アルバムと言えども作品の全体的な質の高さは折り紙付きですよ。
個人的には、多くのアーティストがカバーに挑戦している名曲『A Case of You』を、どこか切なさや悲哀を感じさせる美しいファルセットで歌い上げた故プリンスさんのパフォーマンスが出色の出来栄えでオススメです!
I Dreamed About Mama Last NightHank Williams

日本ではあまり意識されないことではありますが、アメリカにおけるカントリーやブルースといったルーツ・ミュージックの影響力はとてつもなく大きいものがあります。
偉大なロック・ミュージシャンが敬愛するカントリー・シンガーの楽曲をカバーしたことで、その存在を知ったというロック・リスナーもいらっしゃるのではないでしょうか。
本稿の主役、ハンク・ウィリアムズさんは29歳という若さでこの世を去った伝説的なカントリー音楽のシンガーソングライターです。
短い音楽キャリアの中で11曲もの楽曲をチャート首位に送り込み、素晴らしい名曲を多く送り出したウィリアムズさんのトリビュート・アルバム『Timeless: Hank Williams Tribute』は、まさにウィリアムズさんがカントリーだけでなく他分野のミュージシャンにも多大なる影響を及ぼしていることがよくわかる1枚。
ボブ・ディラン御代を皮切りに、シェリル・クロウさんやベックさん、本作がリリースされた2001年の時点ではオルタナティブ・カントリー界の若き旗手と目されていたライアン・アダムスさん、ルシンダ・ウィリアムスさんやエミル―・ハリスさんといったカントリー音楽の大御所など、アメリカのミュージシャンが中心のラインアップの中で、キース・リチャーズさんのようなイギリス勢も参加しています。
本作を聴くことが、アメリカン・ミュージックが持つ奥深い魅力の一端を知る良い機会となるかもしれません。






