シティポップの名盤!定番のアルバム・オススメの1枚
日本生まれの「シティポップ」は、インターネットの普及とともに海外の音楽ファンが再発見、ネット時代ならではのブームを巻き起こしています。
竹内まりやさんの『プラスティック・ラヴ』や松原みきさんの『真夜中のドア〜Stay With Me』といった曲が話題を集め、最近ではザ・ウィークエンドさんが亜蘭知子さんの『MIDNIGHT PRETENDERS』をサンプリングした楽曲を発表するなど、洗練された洋楽に影響を受けたシティポップが逆輸入のような形で海外の人々に受け入れられているのがおもしろいですよね。
本稿ではそんなシティポップをこれから聴いてみたい、という方に向けた「シティポップの定番の1枚」を紹介しています!
シティポップの名盤!定番のアルバム・オススメの1枚(1〜10)
You’re My Baby佐藤博

オープニングを飾る『AWAKENING(覚醒)』のイントロで鳴り響く波の音、ロマンチックなピアノの音色だけでもうノックアウト必至ですね!
J-POP史に残る鍵盤奏者であり、多くの名盤へのスタジオ・ミュージシャンとしての参加、作曲者としても多数のCM音楽やテレビ番組の主題歌などを手掛けた佐藤博さんが、1982年に発表したソロ・アルバム『awakening』です。
当時はシンガーソングライターとして作品をリリースしていた佐藤さんですが、鍵盤奏者としての力量を買われて他のアーティストとの仕事ばかりが増え、そういった現状を打破すべく1979年に渡米を決意、数年後に「Linn Drum LM-1」というドラムマシンと出会い衝撃を受け、本作のデモ・テープを制作した上で帰国を果たして本作をリリースしたという背景は非常に興味深いですね。
もともと1人で多重録音をこなすスタイルであった佐藤さんですが、前述したドラム・マシンを駆使して理想のリズム・パターンを打ち込み、ボーカルもこなした本作はまさにシティポップ的な洗練を感じさせる内容となっています。
ジャズ的なコードを多用する佐藤さんのキーボードの音色や夏を想起させる楽曲群はいかにもシティポップ的ですが、知らない人が聴いたら本作のドラムを打ち込みだとは思わないかもしれません。
あのドリームズ・カム・トゥルーのベーシスト、中村正人さんをして「打ち込み・ジェダイ・マスター」と言わしめた手腕の見事さも聴きどころですね。
ちなみに収録曲の『Say Goodbye』は、イギリスを代表するロック・バンドTHE 1975の楽曲『Tonight (I Wish I Was Your Boy)』で引用されていますよ。
頬に夜の灯吉田美奈子

シティポップの名盤というテーマにおいても、必ずその名前が挙げられるアーティストの1人として、長きに渡って日本の音楽シーンをリードし続ける女性シンガーソングライターの代表的な存在、吉田美奈子さんがいます。
高校生の時に細野晴臣さんと松本隆さんに出会い、シンガーソングライターを志すようになったというエピソードは、もうそれ自体が日本の音楽の歴史そのものですよね。
1973年にはその細見さんのプロデュースでアルバム『扉の冬』をリリース、本格的なデビューを果たした吉田さんは、自身の楽曲はもちろん多くのアーティストへの曲提供やCM音楽の制作など、まさに卓越したソングライター兼音楽アレンジャーとしての才能を存分に発揮させた活動を続けます。
そんな吉田さんの作品は冒頭で触れたようにシティポップとしての人気も高いものが多いのですが、本稿では1982年にリリースした『LIGHT’N UP』を紹介しましょう。
吉田さんのディスコグラフィの中でも「ファンク時代の最期を飾る作品」とも呼ばれており、フュージョンやソウルからの影響を昇華した作風は、まさにシティポップとしての魅力も存分に詰まった作品だと言えるのですね。
ほとんどの楽曲は吉田さんが作詞と作曲を手掛け、フュージョン系の名手たちが隙のないアンサンブルで魅せるサウンドは文句のつけようがないほどの完成度を誇ります。
抜群の歌唱力で歌謡曲とは一線を画すメロディ・ラインをソウルフルかつ自在に歌い上げる、吉田さんのシンガーとしての素晴らしさも圧巻の一言!
サマー・コネクション大貫妙子

山下達郎さんとともにシティポップの始祖的な伝説のバンド「シュガー・ベイブ」を立ち上げ、解散後は卓越したシンガーソングライターとしてシーンに君臨し続ける大貫妙子さん。
彼女のアルバムも初期シティポップの名盤として高い人気を誇る作品が多く、本稿で取り上げている『SUNSHOWER』もその1つです。
1977年にリリースされた『SUNSHOWER』は大貫さんにとって通算2枚目となるアルバムで、1曲を除くすべての楽曲が大貫さんの作詞・作曲、編曲を坂本龍一さんが担ったまさに名盤の誉れ高い1枚として海外での人気も高い作品なのですね。
2014年に放送されたバラエティ番組『Youは何しに日本へ?』において、本作のレコードを求めて日本にやってきた海外の音楽ファンがシティポップ好きの間で話題となったことも、海外における本作の人気の高さを裏付けるエピソードです。
そんな本作、残念ながら商業的な成功を収めるまでにはいたらなかったのですが、新進気鋭のミュージシャンたちが参加して、同時代的なフュージョンやクロスオーバーといったサウンドを全面的に取り入れた作風であり、1990年代以降に渋谷系の流れでクラブ世代から再評価されたアルバムでもあるのです。
吉田さんのシンガーソングライターとしての才能はもちろん、YMO以前の坂本教授による確かなプロデューサーとしての手腕、フュージョン好きにはおなじみのグループStuffのドラマーであるクリス・パーカーさんが生み出した心地良いグルーヴ、先進的なサウンドは、今後もますます評価が進むことでしょう。
シティポップの名盤!定番のアルバム・オススメの1枚(11〜20)
ルージュの伝言荒井由実

1971年に17歳という若さで作曲家としてデビューを果たし、翌年には新進気鋭のシンガーソングライターとして世に飛び出したユーミンこと松任谷由実さん。
当時は荒井由実として活動していた彼女はその都会的なセンスで素晴らしい傑作を多く生み出しており、シティポップの走り的な評価も受けることが多いのですが、本稿ではあのシュガー・ベイブの『SONGS』と同年の1975年にリリースされた通算3枚目となるアルバム『COBALT HOUR』を取り上げます。
ハイ・ファイ・セットへの提供曲だった『卒業写真』や、名作アニメ映画『魔女の宅急便』の主題歌としてもおなじみの『ルージュの伝言』など、J-POPとして世代をこえて愛され続けている名曲も収録されておりますが、文学的な素養を豊富に持つ早熟な天才少女としての詩的でやや内省的な作風だったデビュー・アルバムとセカンド・アルバムを経て、後の日本を代表するポップの女王としての才能が本格的に開化した記念すべき1枚としても高く評価されている傑作なのですね。
後に夫となる松任谷正隆さんが全面的にプロデュース、松任谷さんや細野晴臣さん、鈴木茂さんに佐藤博さん、林立夫さんといった日本のポピュラー音楽史において多大なる貢献を果たした卓越したミュージシャンが集まったバンドのティン・パン・アレーが前作と前々作に引き続き演奏に参加しており、荒井さんのソングライターとしての魅力を存分に引き出しています。
70年代当時に全盛だったフォークの庶民的な雰囲気とは一線を画す、都会的で洗練を極めた上質なポップスの名曲がずらりと並ぶ本作は、まさに「シティポップ」の元祖的な作品と言えましょう。
Down Townシュガー・ベイブ

シティポップ前夜といえる1970年代、山下達郎さんや大貫妙子さんといった日本を代表するミュージシャンたちが若き日に結成したシュガー・ベイブという伝説的なバンドをご存じでしょうか。
3年程度の活動、アルバムも1枚を残しただけで商業的な成功には恵まれなかったのですが、従来の日本の歌謡曲とは全く違うセンスで生み出された音楽は、在籍していたメンバーたちのその後の活躍もあって再評価が進み、日本の音楽史を語る上でも欠かせない重要なバンドとして認知されるにいたっています。
そんなシュガー・ベイブにとって唯一となったアルバム『SONGS』は1975年にはっぴいえんどの大瀧詠一さんが設立したナイアガラ・レーベル第一弾としてリリース、プロデュースも大瀧さんが手掛け、20代前半の才能豊かな若きミュージシャンたちが生み出した革新的な作品はJ-POPの金字塔であり、シティポップの文脈においても必ず紹介しなくてはならない名盤なのですね。
同時代の洋楽の名盤と比べても遜色のない完成度の高さは今でこそ多くの音楽ファンから評価されていますが、当時はあまりにも先鋭的すぎて受け入れられなかったというのが通説となっています。
多くのアーティストがカバーした名曲『DOWN TOWN』を始めとして、美しいコーラス・ワークや凝りに凝ったきらびやかなアンサンブル、エバーグリーンなメロディ・ライン……いつ聴いても新しい発見のある本作は現時点ではサブスクなどで聴くことはできませんが、ぜひCDやレコードを買って体験してほしいですね。
スノッブな夜へ国分友里恵

インターネット上におけるシティポップ再評価の中心人物と言える、韓国の音楽プロデューサーのNight Tempoさんが2021年にリリースした初のオリジナル・アルバム『Ladies In The City』には多くの日本人女性シンガーが参加していますが、刀根麻理子さんに国分友里恵さんという80年代から活動するシンガーの名前を見つけて思わずにやりとしたシティポップ好きは多くいらっしゃるのでは?
本稿で紹介しているアルバム『Relief 72 hours』は1983年にリリースされた国分友里恵さんのデビュー・アルバムであり、シティポップの文脈においても高い人気を誇る名盤の1つ。
当時は知る人ぞ知る作品であり、長い間未CD化となっていたのですが、2013年にようやくCDがリリースされたことで若い音楽ファンにも知られるようになった作品でもあるのですね。
本作は『真夜中のドア〜Stay With Me』をはじめとするシティポップの名曲や名盤を多く生み出した林哲司さんがプロデュースを務めており、手練れのミュージシャンたちによるグル―ヴィなアンサンブルが最高に心地良く、シティポップやライトメロウといった言葉に目がない方であれば確実にチェックすべき1枚です。
粒ぞろいの楽曲が並ぶ中、主役は間違いなく抜群の歌唱力と多彩な表現力で歌いこなす国分さんの魅力的な歌声でしょう。
80年代邦楽のレベルの高さを改めて感じられるアルバムですから、シティポップのみならず80年代のJ-POPシーンをもっと知りたいという方にもぜひ聴いていただきたいですね。
ピンク・シャドウブレッド&バター

岩沢幸矢さんと岩沢二弓さんという兄弟で結成されたブレッド&バターは、兄弟フォーク・デュオとして知られている2人組ながら、フォークにとどまらずボサノバなどさまざまな音楽性持ったサウンドを展開、シティポップという観点においても人気の高い存在です。
出身地にちなんで加山雄三さんやサザンオールスターズといった大物と同じく「湘南サウンド」と親しまれている彼らの音楽は、フォークというジャンルに対するイメージを変えてくれるような個性が感じ取れます。
彼らが1974年に発表した『ピンク・シャドウ』はシティポップ・クラシックとしてその名を刻む大名曲として知られていますが、その名曲が収録されたアルバム『Barbecue』は間違いなくシティポップに興味を持っている音楽ファンがチェックすべき名盤なのですね。
フォークの形式から逸脱したメロディ・センスや歌詞は独特ですし、当時の歌謡曲やフォークソングとは全く違う洋楽からの影響を感じさせるグルーヴを生み出すアンサンブルは時代を考えても驚異的と言えそうですね。
何といっても参加メンバーの豪華さは特筆すべきもので、ティン・パン・アレー、サディスティック・ミカ・バンド、トワ・エ・モワ、ハイ・ファイ・セットといったグループのメンバーたちが参加しているのです。
日本のポピュラー音楽史の歴史そのものといった作品であることは間違いないですし、後に山下達郎さんが前述した名曲『ピンク・シャドウ』をカバー、1978年に発表されたライブ・アルバム『IT’S A POPPIN’ TIME』に収録されたということも意義深いですよね。