「ゴシック」とは12世紀ごろに誕生した建築様式の1つなのですが、皆さまは音楽ジャンルとしての「ゴシックロック」はご存じでしょうか。
基本的にダークなテーマを掲げて、文学や映画に哲学などからもインスピレーションを得た音楽を鳴らす70年代後半から80年代に登場した主にイギリスのバンドたちによるもので、独創的なサウンドを鳴らすバンドも多く、後のオルタナティブロック勢や日本ではヴィジュアル系のバンドにも多大なる影響を及ぼしています。
「ゴシックメタル」というジャンルも存在しますが、今回の記事はいわゆるポストパンクのサブジャンルとしての「ゴシックロック」のバンドたちを中心として、代表的なグループを紹介します!
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【闇の美学】ゴシックロックのすすめ~代表的なバンド紹介(1〜10)
SpellboundSiouxsie And The Banshees

キュアーやバウハウスよりも早い1976年、まさにイギリスのパンクムーブメント真っ只中に結成されたスージー・アンド・ザ・バンシーズもまた、ゴシックロックのカリスマ的な存在として必ず名前が挙げられる存在です。
バンドの結成メンバーである女性ボーカリストのスージー・スーさんとベーシストのスティーブン・セヴェリンさんは、実はあのセックス・ピストルズの親衛隊……つまり熱狂的なファンだったのです。
最初期のメンバーにはかのシド・ヴィシャスさんがドラマーとして在籍しており、ピストルズが行くところにどこへでも付き添いながら、自分たちのバンドとしての活動も始めたという経緯が興味深いですよね。
本格的にバンドが始動してからはピストルズのフォロワーではなく独自のグループとして自分たちの音楽性を追求、オリエンタル風味のフレーズも印象的な1978年のデビューシングル『Hong Kong Garden』でいきなり全英チャート7位を記録しています。
そんな彼女たちは初期のポストパンク路線で成功しながらも作品ごとに実験的なサウンドへと変化、後の女性アーティストたちに大きな影響を及ぼしたスージーさんの呪術的なボーカルと強烈な個性を持ったメンバーたちによる独創的な音楽性を作り上げた高い評価を得ました。
とくにポストパンク~ニューウェーブ期における天才的なギタリストとして知られるジョン・マッギオークさんが在籍していた時期、バンドの中では「中期」に位置する時代の『Kaleidoscope』や『Juju』に『A Kiss in the Dreamhouse』といった作品群は、ゴシックロックという枠内をこえて1980年代の英国ロックに興味を持っている方は必ず聴いてみてほしいですね。
Hanging GardenThe Cure

バウハウスと並んでゴシックロックのカリスマ的な存在であり、後にカラフルでポップな音楽性で本国イギリスのみならずアメリカなど世界中で大きな成功を収めたバンドが、1978年に結成されたザ・キュアーです。
ジャンルをこえて多くのアーティストたちがキュアーからの影響を公言しており、日本でもヴィジュアル系のバンドを始めとして、オルタナティブロックのバンドなどのインタビュー記事でザ・キュアーやフロントマンのロバート・スミスさんの名前を挙げているのを目にしたことがある、という方は多いのではないでしょうか。
そんなキュアーですが、初期はポストパンク直系のミニマルな音作りで無駄を省いたサウンドを展開しており、ロバートさんの持つ独自の世界観を軸とした音は限りなく内省的で暗いものでした。
同時に、多くのバンドが好んでカバーしていることでも知られる超名曲『Boys Don’t Cry』のようなポップな曲を1979年の時点で発表していることを踏まえて、ロバートさんのメロディーメイカーとしての突出した才能はすでに芽生えていたのですね。
前述したようにキュアーの音楽性は作品ごとに変化しており、ポップさを極めたアルバムもあればどこまでも闇に沈み込んでしまいそうな作風のアルバムも存在します。
長年ロバートさんと活動をともにした盟友のサイモン・ギャラップさんによる際立ったベースプレイをはじめとして、歴代のメンバーたちの演奏の違いなども楽しめるというのが、40年以上のキャリアを持つキュアーならではのものと言えそうですね。
ゴシックロックとしてのキュアーを味わいたいのであれば、初期の路線の頂点とも言える1981年リリースのサード作『Faith』や、後に全曲を再現したライブをおこなった「暗黒三部作」と呼ばれる三作品などを聴いてみてほしいですね。
She’s In PartiesBauhaus

20世紀初頭に勃発したドイツの芸術活動をバンド名としてアートスクール出のメンバーたちによって1978年に結成、モノクロで統一されたアートワークやシアトリカルなライブパフォーマンス、パンクの熱狂以降の闇の美学を体現したようなデカダンで内省的なサウンドで熱狂的なファンを生み出した伝説のバンド、バウハウス。
ゴスの化身、カリスマティックな立ち振る舞いや圧倒的なオーラを持つボーカリストのピーター・マーフィーさん、独創的なギターワークで魅せるダニエル・アッシュさん、緊張感あふれるアンサンブルの要として緩急を使い分けたグルーヴを生み出すデヴィッド・Jさんとケビン・ハスキンスさんの兄弟によるベースとドラムス……彼らがデビューした当時はゴシックロックという言葉も存在していなかったのですが、まさにそのオリジネイターとして音楽はもちろんさまざまなカルチャーに多大なる影響を与えたのですね。
1983年に解散するまでの5年という短いキャリアの中でリリースしたアルバムは4枚、その特異な存在感や音楽性でありながらも1982年のリリースされたサード作『The Sky’s Gone Out』は全英チャート3位を記録しており、アングラのカリスマというだけではなく商業的な成功を収めたという点も凡百のバンドとの違いと言えるかもしれませんね。
ピーターさんは解散後にソロとして活動、演奏隊のメンバーはラヴ・アンド・ロケッツを結成してそれぞれ素晴らしい作品をリリース。
1998年には再結成を果たして10年後の2008年にはまさかの新作アルバム『Go Away White』を発表、以降も断続的ながら活動を続けています。
ゴシックロックとは何ぞや、といった問いに対する最もシンプルかつ的確な返答がバウハウスと言っても過言ではないでしょう。
I Walk The LineAlien Sex Friend

何とも強烈なバンド名ですが、ゴシックロックやポジティブパンク、いわゆる「ポジパン」と呼ばれたジャンルの旗手として日本でも人気を集めたロンドン出身のエイリアン・セックス・フィーンド。
1982年の結成以来一度も解散することもなく活動を続け、2000年代以降も散発的ながら作品を発表、2018年にも新作アルバムをリリースしているのですから、この手のバンドとしては非常に息の長い存在なのですね。
白塗りのルックスがインパクト大のボーカリストであるニック・フィーンドさんとキーボーディストのミセス・フィーンドさんという夫婦を中心とする彼らのサウンドは、ダークなテーマを扱った歌詞と時に仰々しく時にヒステリックなボーカル、ノイジーなギターとスカスカのダンスビート、妖しいキーボードの音色といった時代を感じさせるものであり、インダストリアルロック的な要素もありますが実験的でもあり、この手のジャンルに精通している方でないと初心者がいきなり聴くのは厳しいものがあるかもしれません。
唯一チャート入りを果たした1985年リリースのサードアルバム『Maximum Security』か、またはアルバム未収録の曲も入った『The Singles 1983-1995』辺りを聴いていただいて、これはいけるとなった方は他のアルバムやシングルなどもぜひチェックしてみてください!
TransmissionJoy Division

ゴシックロックというよりも、ポストパンク~ニューウェーブ時代のイギリスが生んだ最も重要なバンドの一つであり、音楽性はもちろんアートワークから悲劇的な最期に至るまで、バンドの歴史そのものがその後のカルチャーに強烈な影響を与え続けているマンチェスターの伝説、ジョイ・ディヴィジョン。
1979年にリリースされた彼らのデビュー作『Unknown Pleasures』のアルバムジャケットは多くのモチーフとなっていますし、おそらく元ネタを知らずにこのアルバムジャケットがプリントされたTシャツを着ている人もいるでしょう。
そんなジョイ・ディヴィジョンが結成されたきっかけは、ギタリストのバーナード・サムナーさんとベーシストのピーター・フックさんが1976年にセックス・ピストルズのライブを見て衝撃を受けたことが理由です。
初期はワルシャワと名乗っていましたが後にジョイ・ディヴィジョンと改名、カリスマティックなフロントマンのイアン・カーティスさんの内省的な歌詞と印象深いバリトンボイスによるボーカルを軸として、パンクの荒々しさや激しさを陰鬱で醒めた狂気のようなポストパンクへと昇華したサウンドで飛躍的に知名度を上げていきます。
彼らのそういった音楽性はプロデューサーのマーティン・ハネットさんをして「ゴシック的なニュアンスを持つダンスミュージックだ」と評されました。
前述したデビューアルバムのリリース後はさらにバンドに人気も上昇、勢いに乗る中でカーティスさんの精神状態は悪化、1980年の5月18日に自ら命を絶ってしまいます。
皮肉にも同年の7月にリリースされたラストアルバム『Closer』は、全英チャートで6位というヒットを記録しました。
そんな彼らの歴史を深く知りたいという方は、2007年に伝記映画『コントロール』などをチェックしてくださいね。
MoyaSouthern Death Cult

耽美的な要素も兼ね備えたダイナミックなハードロックで世界的な成功を収め、日本でも多くのバンドたちに影響を与えたイギリスのザ・カルト。
その前身バンドとして知られているサザン・デス・カルトは、ポジティブパンクやゴシックロックの代表的な存在としてシーンをリードした存在です。
ザ・カルトでもフロントマンを務めるイアン・アストベリーさんを中心として1981年に結成された彼らはオリジナルアルバムの発表も待たずに2年にも満たない活動で解散してしまいますが、残された数少ない音源を愛するゴシックロック好きは多いのですね。
アストベリーさんの特徴的なボーカルとダークな音楽性、隙間を生かしたいかにもポストパンク的なバンド・アンサンブルは、ザ・カルトでは味わえないまさにサザン・デス・カルトならではのもの。
ザ・カルトは聴いていたけどその前身バンドまでは知らなかった、という方であれば驚かれるかもしれません。
彼らが残した数少ない音源は1983年にリリースされた『Southern Death Cult』というコンピレーション作品で聴けますから、ゴシックロックを深掘りしたい方であれば確実にチェックしていただきたいです!
Lucretia My ReflectionThe Sisters of Mercy

1980年に結成されたシスターズ・オブ・マーシーは、2022年代の今も活動を続けるゴシックロックの代表的なバンドとしては最古参の一つです。
とはいえリリースした作品は3枚のみ、1985年にリリースされた邦題『マーシーの合言葉』でも知られているデビューアルバム『First and Last and Always』の時点で一度解散しており、再始動後は結成メンバーのボーカリストであるアンドリュー・エルドリッチさんの実質的なソロプロジェクトとして活動を続けているのですね。
そんなシスターズ・オブ・マーシーの音楽性は、正式なメンバーとしてクレジットされているドラムマシーンが生み出す無機質なリズムを軸として、エルドリッチさんの艶っぽくしゃがれた低音ボーカル、ダークな叙情性を表現するギターがまさに「ゴシックロック」と呼ぶにふさわしく、彼らこそが「ゴスの帝王」と評する人も多いです。
初期の彼らはオリジナルメンバーとして後にゴースト・ダンスを始動させるゲイリー・マークスさんが在籍しており、後から加入したメンバーとしてウェイン・ハッセイさんとグレッグ・アダムスさんという、これまたゴシックロックの代表的なバンドとして知られるザ・ミッションを結成することとなるミュージシャンがいることも踏まえて、シスターズ・オブ・マーシーの存在自体が「ゴシックロックの歴史」そのものと言えるかもしれません。
ドラムマシーンも含めた「5人」によって生み出された前述したデビュー作は、ゴシックロックを通る上で必ず聴くべき名盤です。
より幅広い音楽性を手にして商業的に大きな成功を成し遂げた1987年のセカンドアルバム『Floodland』も合わせて、ぜひチェックしてみてください。