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【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。関西アイドル編

【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。関西アイドル編
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【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。関西アイドル編

【作詞入門】アイドル曲の歌詞の作り方。関西アイドル編

真偽のほどは置いておいて「関西」とひとくくりにされるのを、京都と神戸の人は嫌がると聞いたことがあります。

関西の代表としての大阪、天真爛漫(てんしんらんまん)さや大阪のおばちゃんなどの強烈なイメージが先行してしまうからでしょうか。

今回は、そんな関西を代表する関西色あふれたアイドル曲の歌詞を、2曲ひも解いていきたく思います。

お手本神曲:たこやきレインボー|なにわのはにわ

作詞は、前山田健一さんです。

寄せないアプローチ

「なにわのはにわ」の曲名、このたこやきレインボーというグループが関西から生まれたグループなので、「浪花……うーん、なにわ、なにわ、おっ、はにわと語呂が似ているな、なにわはにわ、なにわのはにわ、これ面白いやん」って思考回路が動いたのかなと思います。

妄想のレベルですが、どうでしょうか。

「ワニワニワニワニワニワニ ワニはアマゾン川(中略)ダニダニダニダニダニダニ ダニは天日干し」

まったく関西に関係ない歌詞です。

もちろん、はにわにも関係ありません。

普通の作詞家なら、ゴルファーがピンを目指すように、関係のあるキーワードに何かと「寄せよう寄せよう」と思いながら書くもの。

毎度のことながら前山田さんの歌詞にはそれが感じられません(例外もあり)。

また、歌詞をポジティブな連想ゲームに持ち込まない独特の風雅を感じます。

文法配列「主語が」→「どうした」、連想配列「海、恋」→「夏、波」のありきたりな例に乗らない強みがこの作詞者にはあります。

お手本とするならば、恋愛の歌詞を書くにしても最初からフルスロットルで「愛だ、恋だ」と書くのではなく、書きはじめは「産経新聞の文字のフォントは……」くらいの遠いところから書いた方が歌詞の世界も広がるのでしょう。

アクセント

特に関西弁と大阪弁と定めて話さなくても、言葉は地域地方により細かく違うものです。

大阪弁も和歌山に近い泉南地域の大阪弁と、京都寄りの北摂の大阪弁とでは微妙に違うものなのでしょう。

歌詞「アニはおらへん!

いーへん!

おらへん!

いーへん!」は、英訳すると「I do not have any brothers.」標準とされる日本語の「私には兄がいません」の「いません」部分の掛け合いとなっています。

私は言語学者ではないので詳細は、専門家のご意見をご自習下されば幸いなのですが、

となるような感じはします。

そんな方言さえ、たくみに歌詞に折り込めるのは作詞家が言葉に敏感である証拠なのでしょう。

例えば、私の歌詞「雨粒 ささやき始めた午後 Sono innamorato di te.」にはアクセントとしてイタリア語を入れています。

ポンとフランス語やイタリア語を入れるのと同じレベルで、方言を加えるのも1つの技術なのでしょう。

方言が美しく響く歌詞もたくさんあります。

軽みのセンス

「なんやろなんやろなんやーろ」

歌詞とは思えない軽さ。

ただし、全体を見渡せば作詞家の単なる酔狂で終っていないバランスの良さ。

歌詞全体に力んだ言葉が連なると、曲に乗せた時に重く感じられることもあります。

ここは強めてここは緩めてのバランスは大切です。

サビの「はにゃはにゃはーにゃ はにゃはーにゃ なにわのはにわ」同じようなサビが言葉を変えて続きます。

歌詞は大きな意味を成してはいませんが、歌としての構造へのこだわりを感じます。

伝えたいことがたくさんあるニューミュージック系の歌手なら物申しそうな歌詞ですが、アイドルの歌詞は「思い」とか「願い」とか、時にはそんなものを越えた事柄を歌うこともあります。

何かを「伝える、波及する」ことを目的としないアイドルもたくさんいます。

大げさな話、全編「ラララ~ラララ~」の曲が発表されるかもしれません。

「なにわのはにわ」はもはや散文的な言葉が必要でない、またそう思わせる、原初的なアイドルソングにつながる1曲です。

お手本神曲:NMB48|てっぺんとったんで!

MV動画はありません。

作詞は言わずと知れた秋元康さんです。

語尾を大切に

関西弁、大阪弁、単語で有名なのは

といったところでしょうか。

歌詞中に関東の人が知っている関西弁がいくつか登場します。

作詞家の秋元さんは 単語そのものよりもたくさんの関西弁特有の語尾に着目して歌詞を書いたかのようです。

負けへんで、ライバルやん、恋やない、それぞれ「負け」「ライバル」「恋」と言葉の持つイメージ・語感をそのまま残し、語尾で関西に拠点を置くNMB48の色を出しています。

意味の伝わらない方言をあえて避けて、歌詞の世界にブレを残さない工夫をしています。

また「恋」の気取ったイメージに似つかわしくない語尾の「~やない」のミスマッチが最高に面白いです。

「~だよ」「~でしょ」「~だね」語尾は理論や文法を越えた言葉の情念の表れだと思います。

女の子像

「喧嘩腰にならんかったら恋やない その可愛いコ どつき倒しちゃうくらいに」

ここに登場する女の子は、勝ち気で気の強い女の子を想定して書かれています。

関西人はとにかく元気、これは大阪のおばちゃんのイメージから沸々と逆算される一つの関西(大阪)の象徴像です。

アイドルの歌詞に女の子の恋は必須ですが、その恋する女の子がどんなイメージの女の子かでその歌詞も随分変わってくることでしょう。

初期設定というものです。

河合奈保子さんの「けんかをやめて」に出てくる女の子はおとなしい、奥手なイメージの女の子です。

中森明菜さんの「少女A」に出てくる女の子は当時の明菜さんのイメージそのままの、ちょっととんがった危険な香りのする女の子でした。

サビの「カチコミや てっぺん てっぺんとったんで」の台詞(せりふ)を吐く女の子ですから、大分とやんちゃな女の子として書かれています。

イメージをどこまで抱えるか、また解き放つか。

曲のヒットを考えれば、最大公約数的な美少女がけなげな片思いをするのが鉄板なような気もしますが、そのような歌詞はたくさんありますのでご注意を。

テイストは足し算

この曲の歌詞から関西テイストを抜いても、感じのいい恋愛応援ソングです。

歌詞「AH- 親友に 相談してみりゃライバルやん AH- 友情もな 関係ないよな競争や」 よくある恋の悩みがちゃんとメロディーに乗っています。

個人的には「方言入れるぞ」と思わないで書いた方が筆が進むと思います。

「ラップみたいな歌詞が書きたいな」と思ったらいきなり韻を踏んだ用語から始めるのではなく、最初は普通に歌詞を書いて、それからラップ要素を足していくとうまく行く場合が多いです。

足し算するその要素の優劣は作家さんのセンス次第です。

例えば

です。

個々それぞれスタイルがあるのでこの書き方が正解でもないのですが、いきなり「レゲエ風に書いてください」と言われても、はじめはなかなかうまくはいかないでしょう。

そんな時はまず普通に書く。

メロディーライン、文字数の問題はあるとは思いますが、テイストはいくらでも後づけできますので。

ライタープロフィール

アイドル作詞家・俳人

瀧乃涙pin句

何のツテもないまま作詞を開始。

数年後、文化放送ラジオドラマ主題歌『全身全霊Open Now!』song byガールズジョッキーまでたどりつく。

SPATIO『泣きそう』『レジスタンスガール』、SPATIO kids『温泉サンバ』、ナナエ『シューティングスター』『恋の話しよ!』他、ご当地アイドル、地下アイドルに歌詞を提供中。

週末はもっぱらアイドルを追い掛けている。

Twitter:t_pink_t

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