80年代テクノ歌謡の魅力~テクノポップの名曲・人気曲
80年代の邦楽シーンを掘り下げていく中で、ディスクガイド本などで「テクノ歌謡」という言葉を目にされた方は多いでしょう。
70年代後半から80年代前半にかけて、YMOを中心とした先鋭的なアーティストたちがテクノの要素を取り入れたサウンドを展開、それらの要素を歌謡曲へと落とし込んで生まれたのが「テクノ歌謡」です。
大ヒットした曲もあれば、ほとんど知られることもなく後に再評価された曲などもあり、知れば知るほど楽しめるジャンルなのですね。
今回の記事では、そんなテクノ歌謡の名曲たちを厳選してお届けします。
「この曲ってテクノ歌謡だったの?」といった発見もあるかもしれませんよ!
80年代テクノ歌謡の魅力~テクノポップの名曲・人気曲(16〜20)
Last Pretenderピンクレディー

『ペッパー警部』や『渚のシンドバッド』に『UFO』と、日本の歌謡曲史に残る国民的な大ヒット曲を次々と飛ばしたピンク・レディーは、定期的に再結成を果たしていることもあり、若い世代でもその名を知られた現役最強クラスの女性2人組ユニットですよね。
そんなピンク・レディーにも、実は隠れたテクノ歌謡の名曲があるのですよ。
1981年に通算21枚目のシングル曲としてリリースされた『Last Pretender』は、YMOの高橋幸宏さんが作曲と編曲を担当した楽曲で、ピンク・レディーとしては最初の解散が決定後にリリースされた作品という位置付けです。
いかにもYMO的なテクノポップをピンク・レディーが歌っている、というのが実におもしろい。
ピンク・レディー自体が歌謡曲というフォーマットの中で先鋭的なサウンドを展開しており、実際に彼女たちのサウンドを分析して生まれたのがYMOの初期名曲『テクノポリス』という事実を踏まえれば、この楽曲のとらえ方もまた変わってくるのではないでしょうか。
まりン飯島真理

アニメがお好きな方の中では、飯島真理さんと言えば『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイ役にして数々の挿入歌などを歌ったことで知られている存在ですよね。
そんな飯島さん、実は才能あふれるシンガーソングライターとしてデビューしたアーティストであり、とくに彼女が80年代に残した初期のアルバムは、シティポップなどの観点からも後年大いに再評価されているのですよ。
今回紹介している『まりン』は、あの坂本龍一さんがプロデュースした1983年リリースのデビュー・アルバム『Rosé』に収録された名曲です。
すべての楽曲の作詞と作曲を当時20歳の飯島さんが担当しているというのですから、その早熟な才能には本当に驚かされますね。
教授のプロデュースは彼女の才能をうまく引き出しておりますが、こちらの『まりン』はアルバムの中でも最もテクノ歌謡な要素を持ち合わせており、当時は最先端のシンセサイザーであった「YAMAHA DX-7」を駆使したデジタル・サウンドはあくまで幻想的で柔らかく、メルヘンな音世界の構築として使用されているというのがポイントです。
楽曲単体はもちろん、ぜひアルバムも聴いてみてくださいね!
天国のキッス松田聖子

基本的に曲を提供される立場のアイドルという存在は、先鋭的なクリエイターにとっては格好の素材であって、アイドルとの仕事で自身の実験精神を思う存分発揮している、というパターンはとくに80年代においては多く見受けられます。
『ハイスクールララバイ』の成功以降、歌謡曲の世界におけるヒットメイカーとして精力的に活動していたYMOの細野晴臣さんが手掛けたアイドル・テクノ歌謡の最も重要な楽曲の1つとして挙げられるのが、最強のアイドルこと松田聖子さんの『天国のキッス』でしょう。
1983年にリリース、オリコンチャートで1位を記録したヒット曲であり、松田さんが主演した映画『プルメリアの伝説 天国のキッス』の主題歌でもある、という問答無用の人気アイドル・ソングでありながらも、転調を繰り返すメロディ展開など細野さんの音楽的な実験精神が大いに反映された名曲なのですね。
同時に、ソングライターたちの挑戦的な作風を難なくこなす松田さんの高い歌唱力、表現力の素晴らしさも強調しておきたいところです。
風の谷のナウシカ安田成美

エイプリル・フール時代からの盟友同士、松本隆さんと細野晴臣さんの黄金コンビが生み出した楽曲の数々は、それ自体が日本の歌謡曲の歴史であることはもちろん、テクノ歌謡という観点においても絶対に欠かすことのできない名作を多く含まれています。
女優、安田成美さんのデビュー曲である『風の谷のナウシカ』もまた、松本さんと細野さんによるテクノ歌謡の名曲です。
1984年にリリースされたこちらの楽曲は、1983年に『風の谷のナウシカ』のアニメ映画化が決まった際に行われた、イメージガールのオーディションで安田さんがグランプリを獲得したという経緯から生まれた楽曲であり、実際には映画本編には使われなかったテーマソング的な位置付けの曲なのですね。
細野さんが当時精力的に取り組んでいた、歌謡曲にテクノの実験的かつ先鋭的なエッセンスを盛り込んだ創作活動は、この楽曲でも存分に発揮されております。
安田さんの初々しい歌声は決して達者なわけではありませんが、細野サウンドに妙にマッチして何とも言えない魅力を生み出しているのがおもしろいですよね。
い・け・な・いルージュマジック忌野清志郎 + 坂本龍一

テクノ歌謡という枠内でも人気の高い楽曲ではありますが、さまざまなタブーを打ち破ったという意味でもエポックメイキング的な歴史的名曲と言えるでしょう!
日本のロック史にその名を刻むレジェンド、忌野清志郎さんとYMOの「教授」こと坂本龍一さんのコラボレーションから生まれたこちらの『い・け・な・いルージュマジック』は、資生堂の1982年春のキャンペーンテーマ曲として制作され、資生堂側から仮のタイトル『すてきなルージュマジック』を提示されていたにもかかわらず、清志郎さんと坂本さんの独断で現在のタイトルとなったのだとか。
清志郎さんにとっては実質的なソロ・デビューシングルという位置付けでもあり、1982年にリリースされてオリコンチャートで1位を記録、80年代を代表するヒット曲でもあるのですね。
冒頭で述べたように、テクノ歌謡としての評価も高く、テクノ歌謡を集めたオムニバス・アルバムなどでも大抵収録されているキラーチューンですが、化粧を施した2人がキスを交わす衝撃的なMVも含めて、その自由奔放な精神が後のJ-POPに多大なる影響を与えたことは間違いないでしょう。
おわりに
こうして改めて多くの名曲たちを聴いてみると、80年代のテクノ歌謡は名だたるクリエイターたちが歌謡曲という枠内の中で、それぞれの個性を思う存分発揮した結果生まれた実に興味深いジャンルだということが理解できたのではないでしょうか。
当時は先鋭的過ぎて理解されなかった楽曲たちを、何十年も経った後でフラットな気持ちで楽しめるのは後追い世代の特権です!
ぜひ、奥深いテクノ歌謡の世界へと飛び込んでみてくださいね。