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ノイズミュージックの名盤。~インダストリアルからジャパノイズまで

ノイズミュージックの名盤。~インダストリアルからジャパノイズまで
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ノイズミュージックの名盤。~インダストリアルからジャパノイズまで

通常の音楽的な楽曲構成や音作りを無視したような手法で、時には純粋な楽器ではなく金属物や自然界に流れる音のサンプリング、その他ありとあらゆる方法を駆使したアーティストたちの自由な発想で生まれる「ノイズ・ミュージック」は、言葉通り聴く人を不快にするほど非音楽的なものです。

本稿では、ノイズ・ミュージックを語る上では欠かせない「インダストリアル・ミュージック」と呼ばれるジャンルの代表的なバンドの名盤を中心として、世界的に「ジャパノイズ」として高い評価を受ける日本のアーティストたちの作品も紹介していきます。

雑音の中にしか得られない特別な感覚を、ぜひこの機会に味わってみてください。

ノイズミュージックの名盤。~インダストリアルからジャパノイズまで(1〜20)

Leichenschrei

Genetic TransmissionSPK

ノイズ~インダストリアル・ミュージックにおける重要なグループの1つに、オーストラリアはシドニーで結成されたSPKがいます。

グループが結成された経緯は各自調べていただければと存じますが、ポーズで「狂気のようなもの」を演出していた他のバンドやアーティストとは全く違う、正真正銘のガチな方々による音楽で世界中のアンダーグラウンドな音楽愛好家たちに衝撃を与えました。

1981年にリリースされたセカンド・アルバム『Leichenschrei』は最高傑作とも評される作品で、デビュー作の時点では不在だった結成メンバーの1人が生前参加した最後の作品という意味でも非常に貴重な1枚と言える代物です。

SPKは本作リリース後も活動を続け、男女二人組として聴きやすいポップなエレクトリック・ミュージック路線へと舵を切ることとなるのですが、本作にまん延する異様かつ呪術的な空気感、メタル・パーカッションの無機質な響き、うねるようなノイズ、時折差し込まれる肉声……それらすべてが渾然一体となって迫りくるさまは、まさに狂気的の一言!

同時に、音楽として全く成立していないかといえばそのようなことはなく、ノイズ・ミュージック~前衛音楽として高い完成度を誇っている、というのは非常に重要な点と言えましょう。

とはいえ聴く人の精神を不安定にさせるほどの悪夢的な副作用がありますから、コンディションを整えてから向き合いましょう。

20 Jazz Funk Greats

PersuasionThrobbing Gristle

インダストリアル・ミュージックの開祖にしてオリジネイター、いわゆるロック・バンド的なフォーマットとは全く違う発想から生み出されたサウンド、アンチ商業主義を掲げたシニカルかつ破天荒なアート活動で世界中の先鋭的なミュージシャンに影響を与えたのが、イギリス出身のスロッビング・グリッスルです。

ノイズ・ミュージック、エレクトロニック・ミュージックの歴史を語る上でも欠かせない存在である彼らの全貌を短い文章で語ることは不可能ですし、1枚のアルバムを聴けば終わりというものではありません。

とはいえ、本稿では1979年に発表された通算3枚目となるアルバムにして傑作と名高い『20 Jazz Funk Greats』に的を絞った形で紹介させていただきますね。

花と緑に囲まれた自然豊かな崖にたたずむ青年たちと美しい女性、というポートレートを使用したジャケットと安直とも言えるタイトルは、実は商業ポップスにありがちなベスト盤を皮肉ったものであり、写真に使われた舞台も実は……といういわく付きの逸品でございます。

シンセやリズム・マシーン、ノイズに淡々としたボーカルなどが織り成す妖しくも言語化不可能な魅力が咲き乱れた電子音楽は、いわゆる「普通のポピュラー音楽」とは程遠いものの、おそらくテクノや音響系のポストロックなどを愛聴されている方であれば意外にも聴きやすいと感じられるのでは?

英国音楽の裏の歴史に興味のある方は、まずはこの1枚から最初の一歩を踏み出してみましょう!

Kollaps

Tanz DebilEinstürzende Neubauten

ドイツが誇る実験音楽~インダストリアル・ミュージック、ノイズ・ミュージックの重鎮であるアインシュテュルツェンデ・ノイバウテン。

1980年の活動開始から長きに渡りシーンのカリスマとして君臨し続ける彼らのファンを公言するミュージシャンは他のジャンルでも多く存在しており、あのブラック・フラッグのフロントマンとして知られるヘンリー・ロリンズさんが、ノイバウテンの象徴と言える「一つ目人間」のマークを左肩に刺青として施しているのは非常に有名ですね。

本稿で紹介している『Kollaps』は1981年にリリースされたバンドにとっての記念すべきデビュー・アルバムであり、邦題となった『崩壊』も含めて最高にパンクで破壊的、カッコいい名盤です。

ネガティブをそのまま具現化したような、それでいて独特の知性を感じさせるボーカリストのブリクサ・バーゲルトさんによる絶望の叫び、メタル・パーカッションや自作の楽器を駆使したカオティックな金属音とノイズが渾然一体となって迫りくる様は、2020年代の今も衝撃的かつ刺激的ですね。

作品をリリースするごとに洗練されていく彼らも魅力的ですが、若さゆえの無謀かつ自由奔放な剥き出しの実験精神は、やはり本作でしか味わえないものです。

Noisembryo

Part 1MERZBOW

Merzbow – Noisembryo [Full Album]
Part 1MERZBOW

本作を再生した瞬間、ノイズ・ミュージックやアバンギャルドな音楽に触れたことがないという方であれば、文字通り自分が耳にしているのは単なる「雑音」だと感じてしまうことでしょう、日本が世界に誇るノイズ・ミュージシャン、秋田昌美さんによるソロ・プロジェクトのメルツバウが1994年にリリースして世界のノイズ愛好家たちから高い評価を得た名盤『Noisembryo』です。

メロディーやハーモニー、そしてリズムといったいわゆる音楽を成立させる要素は一切なし、極端に音響を歪ませたハーシュノイズと呼ばれるの音の塊が60分近く延々と襲い掛かる、というすさまじい1枚。

まさにノイズの暴力、キング・オブ・ジャパノイズの面目躍如といった趣でありますが、おそらく大多数の方はメルツバウの作品を音楽だと認めないでしょう。

秋田昌美さんは玉川大学文学部芸術学科を卒業した経歴を持ち、ダダやシュルレアリスムに影響を受けながらも「スカム・カルチャー」と呼ばれる文化にも造詣が深く、厳格なヴィーガンとしても知られており作家として多くの著作を発表している多才な芸術家です。

さらに言えば、もともとはロックがお好きでドラマーとして即興演奏などをやっていたという、ご本人のユニークな経歴や人となりを踏まえた上で、メルツバウが生み出す圧倒的なノイズの洪水に思い切って飛び込んでみてはいかがでしょうか。

The Downward Spiral

Mr. Self DestructNine Inch Nails

ナイン・インチ・ネイルズをノイズミュージックの名盤としてカテゴライズするのは誤解を生んでしまいそうではありますが、90年代が生んだ天才、トレント・レズナーさんを形作った要素の1つとして、インダストリアル・ミュージックは欠かせないものという意味を込めて、やはり触れておくべきアーティストであると考えます。

近年は映画音楽家としても多くの名スコアを発表、高い評価を受けているトレント・レズナーさんのメイン・プロジェクトであるナイン・インチ・ネイルズが1994年にリリースしたセカンド・アルバム『The Downward Spiral』は、世界中で400万枚以上を売り上げた大ヒット・アルバムにして代表作として知られる傑作中の傑作です。

暴力的なディストーション・ギターがうなりを上げるインダストリアル・サウンド、強迫的な電子音のノイズとデジタル・ビート、一瞬の静寂と美しいピアノの音色、衝動にまかせた叫びと胸を締め付けられるようなメロディ……トレントさんの天才性を遺憾なく発揮した芸術的な作品であることは多くの人が認めるところではありますが、いわゆる通常のロックを期待して聴いたらあまりにもノイジー過ぎると感じてしまうでしょうし、逆にアングラなノイズを期待すればメロディアス過ぎると感じてしまうかもしれませんね。

ともあれ、これほど暗いアルバムが売れまくった90年代という時代の闇、そして豊潤な文化を改めて再認識させられます。

Symphony For A Genocide

TreblinkaM.B.

M.B. (Maurizio Bianchi) – Symphony For A Genocide 1981 FULL ALBUM
TreblinkaM.B.

イタリアが生んだ実験音楽界の巨匠、マウリツィオ・ビアンキさんがM.B.名義で1981年に発表した『Symphony For A Genocide』は、インダストリアル音楽ひいてはノイズ・ミュージックの歴史においては聖典の如き扱いを受ける重要な作品です。

楽曲名はすべてナチスの収容所の引用であり、ジャケットには収容所で行われた残虐な出来事の写真が使われている本作の暗黒ぶり、終末思想すら漂う陰鬱な空気は異様ですらあって、ノイズ・ミュージックに慣れている聴き手であってもコンディションによっては具合が悪くなるほどのもの。

ノイズ・ミュージックにおいて重要な作品だと冒頭で述べましたが、ビアンキさんの作品の中で傑作と評価する方とそうでもない、と評価する方とで分かれているようですね。

チープなリズムボックスの上で反復する電子音とノイズ、コラージュなどの手法で生み出されたサウンドは繰り返しますが暗く絶望的、一筋の光すら見えない内省的でノイズの果てに何があるのか考え込んでしまいます。

コンセプチュアルな本作に込められたメッセージを思えば、このノイズに対して「美」という言葉を使ってはいけないのかもしれませんが、繰り返される電子音の果てにある種の美しさを感じ取ってしまう方も、恐らくいらっしゃるのではないでしょうか。

どちらにしても、まさにタイトルに偽りなしのノイズが生み出す交響曲であることは間違いないでしょう。

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