ノイズミュージックの名盤。~インダストリアルからジャパノイズまで
通常の音楽的な楽曲構成や音作りを無視したような手法で、時には純粋な楽器ではなく金属物や自然界に流れる音のサンプリング、その他ありとあらゆる方法を駆使したアーティストたちの自由な発想で生まれる「ノイズ・ミュージック」は、言葉通り聴く人を不快にするほど非音楽的なものです。
本稿では、ノイズ・ミュージックを語る上では欠かせない「インダストリアル・ミュージック」と呼ばれるジャンルの代表的なバンドの名盤を中心として、世界的に「ジャパノイズ」として高い評価を受ける日本のアーティストたちの作品も紹介していきます。
雑音の中にしか得られない特別な感覚を、ぜひこの機会に味わってみてください。
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ノイズミュージックの名盤。~インダストリアルからジャパノイズまで(6〜10)
TreblinkaM.B.

イタリアが生んだ実験音楽界の巨匠、マウリツィオ・ビアンキさんがM.B.名義で1981年に発表した『Symphony For A Genocide』は、インダストリアル音楽ひいてはノイズ・ミュージックの歴史においては聖典の如き扱いを受ける重要な作品です。
楽曲名はすべてナチスの収容所の引用であり、ジャケットには収容所で行われた残虐な出来事の写真が使われている本作の暗黒ぶり、終末思想すら漂う陰鬱な空気は異様ですらあって、ノイズ・ミュージックに慣れている聴き手であってもコンディションによっては具合が悪くなるほどのもの。
ノイズ・ミュージックにおいて重要な作品だと冒頭で述べましたが、ビアンキさんの作品の中で傑作と評価する方とそうでもない、と評価する方とで分かれているようですね。
チープなリズムボックスの上で反復する電子音とノイズ、コラージュなどの手法で生み出されたサウンドは繰り返しますが暗く絶望的、一筋の光すら見えない内省的でノイズの果てに何があるのか考え込んでしまいます。
コンセプチュアルな本作に込められたメッセージを思えば、このノイズに対して「美」という言葉を使ってはいけないのかもしれませんが、繰り返される電子音の果てにある種の美しさを感じ取ってしまう方も、恐らくいらっしゃるのではないでしょうか。
どちらにしても、まさにタイトルに偽りなしのノイズが生み出す交響曲であることは間違いないでしょう。
NeuridrinaEsplendor Geométrico

スペインを代表するインダストリアル・ミュージック・グループのエスプレンドー・ジオメトリコは1980年に結成され、特徴的なグループ名はイタリアの未来派詩人F. T. マリネッティによるエッセイ『幾何学的および機械的かがやきと数的感受性』から引用されたものです。
荒々しいハーシュノイズとインダストリアル特有のマシン・ビートを用いたサウンドを特徴として、2020年代の今もバリバリの現役として活動している彼らはノイズ・ミュージックのみならず、先鋭的な電子音楽家たちにも多大なる影響を与えているのですね。
今回紹介しているのは、近年は入手困難だった作品が次々とリイシューされ、再評価も進んでいる彼らが1981年にリリースした『Eg -1』です。
オリジナル版はカセット・テープとしてリリースされ、2021年にはリリース40周年を記念したレコードとしてリイシューされています。
凶暴なノイズと反復するミニマルかつ冷徹なマシン・ビートはインダストリアルの基本形であり、テクノ・ミュージックの原型とも言えそうな要素を兼ね備えている点も見逃せませんね。
イギリスのインダストリアル・ミュージックとはまた違った形で展開する独自のノイズが、イタリアで生まれていたという歴史的事実を知る上でも必聴と言える1枚です!
磔磔(京都)April 19, 1981非常階段

非常階段というグループ名、日本のみならず世界的に高い評価を受ける鬼才漫画家の日野日出志さんによる怪作をアルバム・タイトルとしてジャケットにも起用するセンス……もうこれだけで、一般的な音は絶対にやりませんと宣言しているようなものですよね。
破天荒なライブ・パフォーマンスでも知られ、日本が世界に誇る「キング・オブ・ノイズ」こと非常階段が、1982年にリリースしたデビュー・アルバム『蔵六の奇病』です。
全曲がライブ録音であり、曲のタイトルも録音した日時と会場が名付けられています。
1曲目からして全編嘔吐の音という時点で素人お断りな雰囲気が満載、以降は暴力的なまでのフィードバック・ノイズ・ギター、フリージャズ風のサックス、狂気的の絶叫、オーディエンスの声などが吹き荒れる音世界はまさに混沌の一言。
同時に、ドラムによる一定のリズムが鳴らされる瞬間もあり、カオスの中にも「楽曲」として成立している側面がある、という点には注目していただきたいですね。
もちろん、そのように感じるにはある程度ノイズ・ミュージックを聴き慣れていない方でないと無理ではありますが、2012年にはリリース40周年を記念したリマスター盤としてリイシューされていることからも、本作が作品として評価されていることがわかるというものでしょう。
Ultra Cockerハナタラシ

ノイズ、ひいてはジャパノイズの著名アーティストたちの名前はインパクトの強いものが多い印象ですが、後にボアダムスのフロントマンとして世界的な知名度を得る山塚アイさんの音楽家としての第一歩、ハナタラシもまた日本人であれば一発で覚えてしまうバンド名ですね。
ハナタラシは1983年に山塚アイさんを中心として結成されたハードコアパンク~ノイズバンドであり、その悪名高いライブ・パフォーマンスも含めて、80年代地下音楽シーンの伝説として永遠にその名を残すこととなりました。
日本の老舗インディーズ・レーベル、アルケミーレコードから1985年にリリースされたセルフタイトルのファースト・アルバムは、ライブにおけるプリミティブな破壊衝動と混沌がそのまま音として記録されてしまったが如き作品。
遠慮なく襲い掛かるノイズの嵐、お経のようなボーカル、ある意味極限までハードコアでパンクなサウンドは純然たるインダストリアル・ミュージックとはまた違った形の、行き場のない怒りと暴力性と破壊衝動だけで構成されたノイズの塊を味わえる……と表現できるかもしれません。
ボアダムスの音を気に入った方がいきなりこの音に手を出すのは厳しいと思われますから、注意が必要です!
Spread The VirusCabaret Voltaire

芸術や文学などに詳しい方であれば、キャバレー・ヴォルテールというグループ名だけで彼らが普通の音楽グループではないことに気付くはず。
1973年にイギリスはシェフィールドで結成されたキャバレー・ヴォルテールは、いわゆるダダイスムの発祥の地とされるスイスのキャバレーの名前からそのグループ名を拝借したインダストリアル~エレクトリック・ミュージックのグループ。
カットアップの手法などを駆使して実験的なインダストリアル・サウンドを鳴らしていた彼らは、後にエレクトリック・ダンス・ミュージックへとサウンドをシフトしますが、1981年にリリースされたサード・アルバム『Red Mecca』は、初期の実験精神とわかりやすい音楽としてのフォーマットが見事なバランスで成立した作品として名高い傑作です。
トリオ編成だった頃の最後の作品でもあり、初期のキャリアにおける1つの集大成と言えるかもしれませんね。
チープなドラム・マシーンによるエレクトロ・ビート、ミニマルなギターやシンセ、エフェクトが施されたボーカルが呪術的な音世界を作り上げており、ノイズも計算された形で音の装飾として使われている印象です。
スロッビング・グリッスルと並ぶインダストリアル・ミュージックの立役者であり、良い意味で「商業音楽」としてのインダストリアル・ミュージックを作り上げた彼らの功績を知りたければ、ぜひ本作を聴いていただきたいですね。