【青春の輝き】ネオアコースティックの名盤。ネオアコ基本の1枚!
ある程度洋楽に詳しい方であれば、ネオアコースティックという音楽ジャンルの存在をご存じでしょう。
お好きな邦楽アーティストが影響を口にしていて知った、という方もいらっしゃるかもしれませんね。
1980年代初頭のイギリスにおいて、後に名門と呼ばれるいくつかのインディーズ・レーベルからアコースティック・サウンドを軸とした音楽性を独自に表現するバンドが多く生まれ、それらを総称して日本の音楽メディアがネオアコースティック、略して「ネオアコ」と呼んだのが始まりとされています。
本稿では、そんな「ネオアコ」のまずはこの1枚な名盤をピックアップ、基本ということで今回はイギリスのバンドをメインで紹介します!
【青春の輝き】ネオアコースティックの名盤。ネオアコ基本の1枚!(1〜10)
Falling and LaughingOrange Juice

アズテック・カメラと並んで、ネオアコースティックの代表的なバンドといえばこちらのオレンジ・ジュースです。
ネオアコやギターポップの聖地、グラスゴー出身の彼らは1979年にオレンジ・ジュースとしての活動をスタートさせ、3枚のフル・アルバムを残しながらも1985年にバンドは解散。
中心人物のエドウィン・コリンズさんは、ソロ・アーティストとしても音楽プロデューサーとしても成功を果たしていますね。
そんなオレンジ・ジュースの1982年の記念すべきデビュー・アルバム『You Can’t Hide Your Love Forever』は、改めて聴くとネオアコらしいメロディや響きは随所に感じ取れるものの、クリーン・トーンで独特のフレーズを奏でるギターや動き回るベース・ライン、タイトなドラムスは明らかにポスト・パンク的であり、決して技巧的というわけではないのですが、イメージとしてのネオアコとはまた違ったサウンドを奏でているのですね。
コリンズさんの憂いを帯びた深みのあるボーカルも個性的ですし、アル・グリーンさんの楽曲『L.O.V.E. Love』をカバーしていることからも分かるように、ソウルやR&Bといったジャンルからの影響も感じられるのが実に興味深い。
ネオアコ的には、イントロのアルペジオだけで胸がキュンとなってしまう『Dying Day』や、ギタリストのジェイムスさんが作曲を手掛けた『Wan Light』辺りを聴いてみてください!
ReachPale Fountains

何だか物々しい雰囲気のアルバム・ジャケットですが、肝心の音は文句なしのネオアコ大名盤です!
1980年にイギリスはリヴァプールで結成されたペイル・ファウンテンズは、7年ほどの活動歴の中で残したアルバムは2枚、商業的な成果は残念ながら残せませんでしたが、60年代のポップスなどから影響された音楽性は批評家筋の評価も高く、多くのアーティストやバンドへ影響を与えているのですね。
あのフリッパーズ・ギターがいくつかの曲のタイトルをそのまま拝借している、といえばその影響力の大きさが分かるのではないでしょうか。
そんなペイル・ファウンテンズが1984年にリリースしたデビュー作『Pacific Street』は、後にシャックというバンドを結成するマイケル・ヘッドさんのソングライティング・センスの妙が冴え渡る、60年代のソフト・ロック的な質感とネオアコのきらめく青春が高次元で融合した捨て曲皆無の傑作です!
バート・バカラックさんなどの影響を感じさせる上品なストリングスやホーンをうまく取り入れつつ、ボサノヴァなどにも挑戦しながら、あくまで洗練一歩手前な青臭さが残っているのがやはりネオアコらしさと言うべきでしょうか。
オリジナル盤も良いですが、名曲『Thank You』などが追加収録された再発盤を購入することをオススメします!
No Sense of SinThe Lotus Eaters

『青春のアルバム』と名付けられた邦題がすべてを物語る、80年代ネオアコの大・大傑作!
1982年にロータス・イーターズがリリースしたデビュー・アルバムで、バンドはこの1枚だけを残して解散。
後に中心人物の2人のデュオとして再結成、2枚のアルバムをリリースしていますが、全盛期にたった1枚のアルバムだけを残した、というのがいかにもネオアコらしく貴重で儚い価値をさらに助長させたというべきかもしれません。
日本のネオアコ好きの中でも人気の高い1枚であり、一時期は廃盤状態が続いて高騰していたこともありましたが、無事にリマスター盤として再発されました。
そんな本作は他のネオアコと比べても際立った透明感があり、キーボードを多用したニューウェーブ的な音とリヴァプール出身らしいアコースティック・ギターのアルペジオが重なり合い、伸びやかで美しいビブラートの持ち主であるピーター・コイルさんの中性的な歌声で紡がれるメロディはどこまでもロマンティック。
『The First Picture Of You』や『German Girl』といったネオアコ史に残る名曲も多く収録されており、このアルバムもまた、ネオアコという音楽ジャンルを知る上で重要な1枚と言えるでしょう。
ネオアコに青春のきらめき、儚さ、揺らめきなどを求める方は絶対に聴くべきです!
FortuneFelt

1979年に結成されたFeltは、非常に特異な美学と個性を持つバンドです。
キャリアの中で初期から中期にかけてチェリー・レッド、後期にクリエイション、というネオアコという意味でも英国ロック史においても重要な2つのレーベルに所属しており、その時期によって音楽性が異なるというのも特徴的なのですね。
クリエイション時代はあのプライマル・スクリームのキーボーディスト、マーティン・ダフィさんが在籍していたことでも知られています。
今回紹介している『Crumbling the Antiseptic Beauty』は、そんな彼らが1981年にリリースした6曲入りのデビュー・アルバムです。
『美の崩壊』という邦題、ボーカリストのローレンスさんの憂いを帯びた眼差しが鮮烈なアルバム・ジャケットがとにかく印象的で、後にネオアコやギターポップの名盤と呼ばれる多くの作品のプロデュースを手がけたJohn A. Riversさんがプロデューサーを担当しているのもネオアコ好きの間では有名ですね。
音程を無視したようなローレンスさんの独白調のボーカル、モーリス・ディーバンクさんによる繊細で美しいアルペジオの響き、ポスト・パンク由来のリズム、どれをとっても個性的で正直言えば万人受けする音とは言えないでしょう。
とはいえ、一度この音にはまったら抜け出せない魅力がありますから、FELTの持つ音世界にぜひ一度は足を踏み入れてみてください!
AppetitePrefab Sprout

ネオアコの名盤というだけでなく、1980年代の英国ロックが生んだ素晴らしいメロディの魔法が詰まった大傑作!
1982年に結成されたプリファブ・スプラウトは、中心人物のパディ・マクアルーンさんによる飛び抜けたソングライティング・センスを軸として生み出された名盤や名曲の数々が高く評価されており、商業的にも成功を収めたバンドです。
そんなプリファブ・スプラウトが1985年にリリースしたセカンド・アルバム『Steve McQueen』は、タイトルでも分かるように著名な俳優からタイトルを拝借しており、アメリカでは当時はそのままの名前ではリリースできずに『Two Wheels Good』というタイトルで発売されたという経緯もある1枚。
冒頭で述べたように、永遠に色あせないエバーグリーンなメロディがこれでもかと詰め込まれた楽曲がずらりと並ぶ、ネオアコという枠内に収まらない魅力を放つ名盤なのですね。
美メロが際立つ『Bonny』やイントロからしてもう切なさ炸裂な『Appetite』など、ネオアコのコンピレーション盤でもよく収録されている名曲を多数収録しております。
『Horsin’ Around』辺りなどに顕著ですが、紅一点のウェンディ・スミスさんによるコーラスがいい味出してますよね。
音楽プロデューサー、シンセサイザー奏者としても有名なトーマス・ドルビーさんによるプロデューサーとしての手腕も冴え渡っており、バンドのポテンシャルを最大限に引き出しているところにも注目してみてください。
ObliviousAztec Camera

ネオアコというジャンルにおいて、象徴的と言えるバンドの1つがスコットランド出身のアズテック・カメラです。
1980年、当時16歳のフロントマンである美少年、ロディ・フレイムさんを中心として結成されたアズテック・カメラが、1983年に名門レーベル「ラフ・トレード」からリリースしたデビュー作『High Land, Hard Rain』は、まさにネオアコのムーブメントをけん引した名盤中の名盤!
オープニングを飾る、邦題の『思い出のサニー・ビート』でも知られている『Oblivious』は、ややラテン風味のリズム感が爽やかでオシャレ、メロディの美しさも一級品のネオアコの基本にして王道のナンバーです。
ネオアコというジャンルでとりあえず1枚聴いてみたい、という方は本作を聴けばよいのではないでしょうか。
同時に、ファンの中でも人気の高い楽曲『Walk Out to Winter』の歌詞に、あのザ・クラッシュのジョー・ストラマーさんの名前が出てくるなど、当時の時代背景を鑑みても単なるナイーブな少年たちの軟弱な音楽というわけではない、ということは強調しておきたいところですね。
ともあれ名曲ぞろいで捨て曲なしの本作は、ロディさんの天才的なソングライターとしての才能が光り輝く、一定のムーブメントの枠内をこえたエバーグリーンな魅力を放ち続ける80年代英国インディーロックの素晴らしき1枚である、と言えましょう。
Obscurity KnocksThe Trash Can Sinatras

1990年代以降で最も有名なネオアコ・バンドと問われて、トラッシュキャン・シナトラズの名前を挙げる方は多いでしょう。
同じスコットランド出身ということもあるのか、あのアズテック・カメラと比較されるほど期待され、80年代の初期ネオアコの輝きを90年代に復活させたとも言われています。
ネオアコとされるジャンルの中では珍しく、2020年代の今も現役で活動している彼らが1990年にリリースしたデビュー・アルバム『Cake』は、同作に収録されたデビュー曲『Obscurity Knocks』とともにアメリカでも高く評価された1枚です。
よく言われていることですが、本作がリリースされた時期は、イギリスではいわゆる「マッドチェスター」と呼ばれたムーブメントの最盛期で、ダンサンブルなビートとサイケデリックな質感を持ち合わせたロック・サウンドが人気を博していたのですね。
そういった時代背景を念頭に置いて本作と向き合えば、彼らがいかに自分たちの鳴らすべき音というものを承知していたのかを痛感することでしょう。
アコースティック・ギターを基調としつつも思いの外力強いビート、青臭いメロディの素晴らしさ、ほんのり感じられるジャズ・テイスト、素朴なフォーキーさ……すべてがデビュー作ならではの瑞々しい感性を通して形となった素晴らしい逸品です。
本作が代表作であることは間違いないですが、個人的には1996年にひっそりとリリースされたサード・アルバム『Happy Pocket』もオススメです!