牧歌の名作。パストラールの魅力に迫る代表作まとめ
日本語で牧歌的という言葉がありますが、穏やかな田園風景を描いた音楽がパストラーレ、牧歌です。
羊飼いたちの素朴な暮らしや自然との調和などを表現するこのジャンルは、古代ギリシャ・ローマ時代から愛され続けてきました。
のどかな情景を思い起こさせる優美な旋律と、素朴な中にも深い叙情性を秘めた歌詞が特徴です。
バロック時代には声楽曲や器楽曲としても発展を遂げ、現代に至るまで多くの作曲家たちの心を魅了してきました。
このジャンルを代表する名作の数々を、その魅力や背景とともにご紹介していきます。
牧歌の名作。パストラールの魅力に迫る代表作まとめ(1〜10)
交響曲第6番 ヘ長調 作品68『田園』Ludwig van Beethoven

ベートーヴェンが1808年に完成させた全5楽章構成の交響曲は、パストラールの最高傑作として今なお愛され続けています。
田舎への到着、小川のせせらぎ、農民の踊り、激しい嵐、そして感謝の歌と、まるで一日の物語を体験するような展開が魅力です。
第2楽章ではフルートがナイチンゲール、オーボエがウズラ、クラリネットがカッコウを模倣する愛らしい仕掛けも。
1808年12月にウィーンで『運命』と同時初演された本作は、1940年のディズニー映画『ファンタジア』にも採用され、ギリシア神話の牧歌的世界を彩りました。
自然に癒されたいとき、穏やかな時間を過ごしたいときにぴったりの一曲です。
ペール・ギュント 第1組曲 作品46 第1曲「朝」Edvard Hagerup Grieg

朝のやわらかな光を思わせるフルートとオーボエの対話が美しいこちらの作品は、エドヴァルド・グリーグによる組曲『ペール・ギュント 第1組曲』の冒頭を飾る一曲です。
ヘンリク・イプセンの戯曲のために書かれた劇付随音楽から抜粋され、1888年に組曲として出版されました。
穏やかな6/8拍子とホ長調の透明な響きが、まさに牧歌的な情景を描き出します。
テレビ番組や広告でも夜明けのBGMとして親しまれており、英国のインスタントコーヒーCMでも採用されました。
休日の朝、ゆったりとした時間を過ごしたいときにぴったりの楽曲です。
余談ですが、劇中では主人公が砂漠で困窮する場面に流れるという意外な背景も興味深いですね。
合奏協奏曲 ト短調「クリスマス協奏曲」 Op. 6, No. 8Arcangelo Corelli

ローマの冬、羊飼いの素朴な調べに心洗われる1曲をご紹介します。
アルカンジェロ・コレッリの手による本作は、1714年にアムステルダムで出版された協奏曲集『Op.6』に収められた作品です。
終曲にはバグパイプのような持続低音が印象的なパストラーレが置かれ、降誕の静けさと牧歌的な明るさを見事に描いています。
映画『マスター・アンド・コマンダー』のサウンドトラックにも採用され、海の物語に神秘的な安寧をもたらしました。
クリスマスの礼拝やコンサートで定番の作品ですが、静かに祈りをささげたいときや、古楽の透明な響きに包まれたいときにもオススメです。
『アルルの女』第2組曲 第1曲「パストラール」Georges Bizet

19世紀フランスの劇音楽の至宝から生まれた組曲『L’Arlésienne Suite No.2』の冒頭を飾る本作。
ビゼーが1872年に書いた劇伴を、親友ギローが編み直した組曲の導入楽章として、1880年3月にパリで初演されました。
アルト・サクソフォンやイングリッシュホルンの柔らかな呼び交わしが朝もやに包まれた田園を描き、ハープの透明な響きが牧人の素朴な情景を浮かび上がらせます。
三部形式の中間部では軽やかなアンダンティーノが小踊りするような明るさを添え、再び静謐な冒頭へ回帰する構成が見事です。
カラヤン指揮ベルリン・フィルやデュトワ指揮モントリオール響の名盤で、その色彩豊かな管弦楽法をじっくりと味わってみてください。
ブルグミュラー25の練習曲 『牧歌』Burgmüller

穏やかな田園の情景を描いた教育曲の傑作として、ブルグミュラーの作品100の第3曲は格別な魅力をもっています。
ト長調の柔らかな響きと6/8拍子の揺らぎが、羊飼いのいるのどかな風景を思い起こさせてくれるのです。
右手が歌う優美な旋律と左手の控えめな和音伴奏のバランスが絶妙で、レガートで歌わせる技術や装飾音の軽やかな処理を自然に身につけられる構成になっています。
1851年12月にパリで出版された教育曲集『25 Études faciles et progressives』に収められ、現在もトリニティ・カレッジやオーストラリアのAMEBのグレード試験で採用され続けています。
音楽的な表現力を育てたい学習者や、美しい旋律に癒やされたい方にぴったりの1曲です。
メサイア 田園交響曲「ピファ」Georg Friedrich Händel

バロック音楽の大家ヘンデルが1741年に作曲し、翌1742年4月にダブリンで初演されたオラトリオ『Messiah』。
その第1部に置かれた器楽間奏曲は、羊飼いたちへの聖夜の告知を静かに予告する短い牧歌です。
持続低音の上で弦楽器が三度並行の優しい旋律を奏で、12/8拍子のゆったりとしたうねりがシチリアーノ風の素朴さを醸し出します。
金管や打楽器を一切使わず、レガート主体の弦だけで夜の静けさと遠景からの祈りを無言のまま描き出す手法は、まさにヘンデルの劇的構成力の結晶といえるでしょう。
クリスマス期の演奏会で定番となっている『Messiah』全曲の中でも、ひときわ穏やかな情景を思い起こさせる名場面です。
パストラーレ ヘ長調 BWN590 第3楽章J.S.Bach

バロック時代の巨匠、ヨハン・セバスティアン・バッハによるオルガン曲。
全4部構成の小規模組曲から、静謐な緩徐楽章として配置された第3楽章です。
息の長い旋律がオーボエのようにやさしく歌い、素朴な和音がそっと寄り添う構図は、イタリアの田園音楽の伝統を受け継いだもの。
羊飼いの素朴な情景を思わせるゆったりとした揺れと、カンタータのアリアを思わせる歌心が、時間を忘れさせる瞑想的な世界を紡ぎます。
1720年頃に作曲され、1845年にライプツィヒで初出版されたこの作品は、クリスマスや追悼の場でも演奏される名曲。
心を静めたいとき、日常の喧騒から離れて深い呼吸を取り戻したいときに、オルガンの連続する響きが優しく包んでくれます。






